2010年 12月 20日
【Payback】 |
スリラーはボリウッドが苦手とするジャンルの1つ。そのためかメインストリームの大作で作られることは少なく(今年は【Karthik Calling Karthik】くらい?)、低予算作品が多くなります。【Payback】もなんとなく観る前から小粒感が漂っていました。しかし、小粒でもピリリと辛いものになるでしょうか?
監督:サチン・P・カランデー Sachin P. Karande 出演:ムニーシュ・カーン(新人)、ザキール・フサイン、サラー・カーン(新人)、グルシャン・グローバー、ムケーシュ・ティワーリー
トレイラー
ストーリー
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クナール(ムニーシュ・カーン)は保険の外交員。だが、押しが弱い性格でなかなか営業成績が上がらない。ある夜、婚約者のイシタ(サラ・カーン)と喧嘩したあと帰る途中、わき見運転で事故、瀕死の重症を負う。クナールを病院に担ぎ込んだ男がいた。男は偽名と偽の電話番号を残し立ち去る。男の名はラグー(ザキール・フサイン)、金で殺しを請け負う殺し屋だった。
怪我から回復したクナールは街で偶然ラグーを見かけ、感謝の意を示すため、遠慮するラグーを無理やり家に招き茶を振舞う。数日後の夜遅く、クナールの家のドアをノックする音。ドアを開けると銃で撃たれ傷を負ったラグーがいた。クナールは自分の命を救ってくれたお返し (payback)としてラグーを助けることにするが・・・
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プロの殺し屋が偶然の出来事からその世界とは全く無縁の素人と出会い、2人の世界が変わるとともに、両者に奇妙な友情が芽生えていくという設定でまず思い浮かんだのは、ジャン・レノとナタリー・ポートマンが出演した【Léon】(1994)。ボリウッドでは【Léon】をネタに、ボビー・デーオール、ラーニー・ムケルジー主演の【Bichhoo】(2000)が作られました。
【Bichhoo】(2000)
【Payback】、残念ながら平凡な作品でした。この設定なら当然期待されるものが、ほとんど見られませんでした。人の命を奪うことが仕事の殺し屋が命を助けたことから生じる感情の変化、「素人」が追い詰められて戦いに踏み込む緊迫感、本来は出会うはずのない2人の間に生まれる友情など、いずれも描くつもりはあったようですが、効果的に表現されていません。
まずは、ストーリーのアイデア不足。ラグーが追われる原因となる事件とラグーを追う悪役の設定が浅く、追われる不気味さもなければ、逆襲で追い詰める緊迫感もありません。クナールとラグーが敵を探さなければならないような「謎」の設定などがあっても良かったと思います。
もう1つは登場人物の物足りなさ。これは設定と演技力の両方が原因。良い映画は「普通の人」を描いても、どこかに輝くものがあります。しかし、【Payback】の主人公クナールは輝いていない普通の人。演技・演出不足です。ラグーを演じるザキール・フサインは脇役俳優としての力量はあるはずなので、こちらは監督の使い方が下手なためと思われます。殺し屋なのに、ずっと(最後の最後まで)怪我でロクに動けないという設定も行き過ぎです。唯一「おおプロだ」と思ったのは、2人で逃げるとき、しっかりと追っ手の車のタイヤを撃ち抜いてから逃げた場面。スリラーはこういう小さな場面の積み重ねが重要です。
クナールが保険の外交員であることも、タイトル以外には(payback=払い戻し金を恩返しにかけてあります)あまり意味がありません。
ムニーシュ・カーン (保険の外交員クナール役)
今作がデビュー。気弱なふつうの青年役ですが、演技はいま一つ。本当はすごいハンサムで強面だけど、演技派なのでああなったというのならスゴイのですが、おそらくそうではないでしょう。今作を見る限りでは主役タイプではないようです。
ザキール・フサイン (殺し屋ラグー役)
ギャング役の出演が多い脇役俳優です。最近では【Allah Ke Banday】でシャルマン・ジョーシーたちの仲間のギャング役でした。ギャング役でもちょっとコメディがかるのですが、今作はそれが災いした感じ。別にふざけてやっているわけではありませんが、もう少し凄みを利かせても良かった気がします。
サラ・カーン (クナールの婚約者イシタ役)
主人公の婚約者で、主人公をちょっとだけ助けたり、悪者に人質に取られたりする、典型的な「主人公のガールフレンド」役。サラ・カーン、テレビ女優のようです。そこそこ美人で(元ミス・マディヤプラデーシュ!)演技もまずまずですが、テレビ出身者特有の演技の平板さが見られました。もう少し慣れが必要でしょう。
ムケーシュ・ティワーリーの悪役は設定のせいで無駄使いでした。グルシャン・グローバーは警部役。こちらはいつもどおり安定しています。
【Payback】
まだまだ発展途上のボリウッド・スリラーを極めたい人、お暇な人、お勧めです。
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by madanaibolly
| 2010-12-20 00:09
| レビュー