2019年 03月 20日
【Badla】 |
監督:スジョーイ・ゴーシュ Sujoy Ghosh
出演:アミターブ・バッチャン、タープスィー・パンヌー、アムリター・シン、マーナヴ・カウル、トニー・ルークトレイラー
ストーリー(ネタバレなし)
****************************************************
冬のロンドン。殺人事件の容疑者ながら保釈中のナイナー・セーティー(タープスィー・パンヌー)のところに弁護士のバーダル・グプター(アミターブ・バッチャン)が訪ねてきた。グプターはナイナーの顧問弁護士(マーナヴ・カウル)が目前に迫る公判のために特別に雇った弁護士で40年間負けなしの凄腕だという。グプターはナイナーに起きたことを細大漏らさずに話すよう求める。ナイナーはビジネスで成功した女性で夫と子供との幸せな家庭もある。だが、3カ月前からカメラマンのアルジュン(トニー・ルーク)と不倫関係にあった。ある日、ある事件をきっかけに何者かが2人を脅迫し始め、ある日2人は田舎のホテルの一室に金を持ってくるよう呼び出された。2人が部屋にいるとき、ナイナーは突然後ろから突き飛ばされ、壁にぶつけて失神した。気付いたときにはアルジュンが何者かに殴られて死んでおり、戸口には警察が来ていた。部屋は完全な密室で、ナイナーは殺人容疑で逮捕された。
ナイナーとグプターに残された時間は3時間。グプターはナイナに脅迫のきっかけとなった「ある事件」についても話すよう促す。
*****************************************************
【Kahaani】(2012)(『女神は二度微笑む』)のスジョーイ・ゴーシュ監督の新作スリラー。
出演はアミターブ・バッチャンとタープスィー・パンヌー。この組み合わせは【Pink】(2016)と同じ。スペイン映画【Contratiempo】(2016)(英語タイトル【The Invisible Guest】)のリメイクです。
制作はシャールク・カーンの制作会社レッド・チリーズ・エンターテイメントで、制作者にはガウリー・カーン、シャールク・カーンの名前があります。
本作は不倫相手を殺害した容疑がかかる女性が弁護士に事件の詳細を話すという設定ですが、オリジナルは男性容疑者に女性弁護士。ゴーシュ監督はリメイクにあたり男女の設定を入れ替えています。
【Badla】、まず第一に良くできたストーリーでした。【Badla】はストーリーの語られ方などではゴーシュ監督の【Kahaani】とだいぶ異なりますが、スリラーの手法として共通点も持っています。それは「語られていること(観ているもの)のすべてが真実であるわけではない」というものです。さらに「語られていること」には「登場人物が語っていること」と「作品が語っていること」の両方が含まれます。ただし、では何が真実で何が嘘であるのかは簡単には見分けられません。そこに本作の面白さがあります。
もちろん作品の構成はナイナーの証言(回想)が中心なので、スリラーを見慣れた観客ならば「ナイナーは事実を話しているのか?」との疑いが生じるはずです。構いません。ゴーシュ監督はそのくらいは計算済みです。事はそれほど単純ではありません。また、なぜ作品のタイトルが「Badla(復讐)」なのかの疑問も出てきますが、それもそう簡単にはしっぽをつかませません。
【Badla】の面白さはストーリーだけではなく、登場人物の2人グプター弁護士と容疑者ナイナー、すなわちアミターブ・バッチャンとタープスィー・パンヌーの演技にもあります。回想シーンは多いですが、【Badla】の中で流れる時間は3時間。そして、回想シーンはどぎついシーンも含めて淡々と語れられる一方で、2人の対話は両者の気迫が渦を巻いてぶつかり合う感じです。
前半の証言(回想)シーンが少し長いと感じましたが、逆に言うと後半に次第に加速していき、クライマックスを迎える効果につながっているのかもしれません。あと、これは難点と言えるかどうかわかりませんが、登場人物がインド人で言語がヒンディー語であることを除くとほとんどインド的な要素はありません。【Kahaani】の濃密なインド感はないだけにそこは不満に思う人がいるかもしれません。
緻密で意外性のあるストーリーとゴーシュ監督の映像化のセンス、主演2人の演技が見ごちに融合した傑作スリラーです。
音楽
プロモ曲のみ。「Aukaat」はオープニングで流れます。
「Kyun Rabba」
「Badla」
タイトル・ソング。
「Aukaat」
歌うのは珍しくないアミターブですが、こんな曲まで歌っちゃう御年76歳。
アミターブ・バッチャン バーダル・グプター弁護士役
40年間負け知らずの凄腕ベテラン弁護士となるとアミターブしかやれる人はいないでしょう。【Pink】の弁護士役も良かったですが、本作では法廷シーンがないにもかかわらず、それに劣らない出来でした。
タープスィー・パンヌー ナイナー・セートゥ役
あいだにそうではない作品を挟んでいるものの、【Pink】(2016)、【Naam Shabana】(2017)、【Mulk】(2018)、【Manmarziyaan】(2018)と「笑顔を見せないヒロイン」の役が続いています。このストイックな姿勢、結構好きです。
アムリター・シンは「ある事件」に関わる人物でストーリーでも重要な役割を果たします。ナイナーの不倫相手で殺害されるアルジュン役はマラヤーラム映画出身で本作がヒンディー映画デビューのトニー・ルーク。インド人です。【Tumhari Sulu】(2017)でヴィディヤー・バーランの夫役だったマーナヴ・カウルはナイナーの顧問弁護士役。
インド的な感覚あるいは日本的な感覚で【Badla】を観ると、まず違和感を感じるのは殺人容疑で逮捕されたナイナーが保釈されて自宅にいること。オリジナルのスペイン、あるいは【Badla】が舞台にしているイギリスの法律で殺人容疑で保釈がありうるのかは知りませんが、インド刑法では殺人罪は「保釈不可」に分類されており、インドが舞台だとストーリーの整合性が取れなくなります。ゴーシュ監督が作品の舞台をイギリスにしたのはそのためかどうかはわかりませんが。
【Badla】
作品に仕掛けられたトリックにチャレンジしてみたい人、盛大に騙されてみたい人、アミターブとタープスィーの演技を堪能したい人、おすすめです。
by madanaibolly
| 2019-03-20 02:48
| レビュー