2019年 03月 19日
【Sonchiriya】 |
監督:アビシェーク・チョーベー Abhishek Chobey
出演:スシャーント・シン・ラージプート、ブーミ・ペードネーカル、マノージュ・バージパーイー(特別出演)、ランヴィール・ショウリー、アシュトーシュ・ラーナートレイラー
ストーリー
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1975年、世間はインディラ・ガンディー首相の非常事態宣言で騒ぎになっていたが、インド中部マディヤ・プラデーシュ州チャンバル河岸地域ではそれまでと変わりなく、マン・シン(マノージュ・バージパーイー)率いるダコイット(武装盗賊集団)、自称「反乱軍」が農村を荒らしまわっていた。しかし、あるとき彼らに個人的な怨みを持つ警察官ヴィレーンドラ・シン・グッジャル(アシュトーシュ・ラーナー)が仕掛けた待ち伏せ攻撃に遭い、マン・シンは死亡し、集団は壊滅状態となる。かろうじて生き残ったラクナー(スシャーント・シン・ラージプート)、ヴァキル・シン(ランヴィール・ショウリー)らは、いったん逃げ延びて体制を立て直すことにする。途中、ある事情で子供を連れて村から逃れてきた女性トーマル(ブーミ・ペードネーカル)も同行することになる。執拗に彼らを狙う警察の追撃をかわしつつ敗走を続けるが・・・。
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出演は主演のスシャーント・シン・ラージプートに、【Toilet – Ek Prem Katha】(2017)のブーミー・ペードネーカル。それにランヴィール・ショウリー、アシュトーシュ・ラーナーの個性派脇役俳優を揃えています。
タイトルの「Sonchiriya」は「金の鳥」という意味ですが、「インドオオノガン」という絶滅に瀕した特定の鳥を指すこともあるそうです。ただし、本作では人名です。
アビシェーク・チョーベー監督は【Ishqiya】や【Udta Punjab】で暗く危険な雰囲気を漂わせたインドの農村を描いてきましたが、本作【Sonchiriya】ではダークさが一段とアップし、「農村ノワール」と言っていい作品になっています(そんな言葉はないかもしれませんが)。
いきなり冒頭が道に横たわる腐敗してハエがたかった大蛇の死骸で度肝を抜きます(しかも長回し)。もうこの時点でダメだと引いてしまう人がいるかもしれないほどのインパクトです。その後は主人公たちの武装盗賊集団と警察との銃撃戦などアクションの要素も入りますが、暗く重苦しい雰囲気は最後まで続きます。本作が持つ暗さは確かに敗残兵の逃避行という設定のためでもありますが、物語の背景をなすインド農村に固有の二つの問題、すなわちカースト制と女性の地位の低さが原因です。
カースト問題についてはこの地域で有力な二つのカーストの対立を頭に入れて観るとわかりやすいと思います。主人公たちの武装盗賊集団は上位ヴァルナのバラモンに属するタークルと呼ばれるカースト、彼らに襲われる村はカーストでは下位のグッジャルというカーストに属しています。すなわち本作で描かれるダコイットの行動は単に盗賊行為というだけではなく、カースト対立によるお互いに対する長年の怨みが背景にあります。主人公たちに恨みを持つ警察官の苗字はグッジャルというように、ここかしこにカースト対立が垣間見えるストーリーになっています。
インド、特に農村の女性の地位の低さの問題はここで繰り返す必要はないほどいろいろと報じられていますが、本作ではこの問題は途中から同行することになる村を逃れてきた女性のトーマルに集約されています。次第に彼女の境遇が明かされていきますが、それはひどいものです。
雰囲気の重苦しさや扱う題材・表現のハードさから決して気楽に観ることはできませんが、細部まできっちりと作られた作品であるのは間違いありません。一般受けはしないと思いますが、真面目に取り組むつもりで観る人にはいい作品です。
音楽
もともと作曲家出身で、【Haider】(2014)、【Rangoon】(2017)の監督としても知られるヴィシャール・バルドワージが音楽。彼はチョーベー監督の【Ishqiya】や【Dedh Ishqiya】(2014)の音楽も担当していました。
「Sonchiriya」
「Naina Na Maar」
「Ruan Ruan」
スシャーント・シン・ラージプート ラクナー役
スシャーントのこれまでの出演作の中では一番硬派な役(【Detective Byomkesh Bakshy】(2015)がその次か)でした。それでもダコイットの一味の中では一番人間らしい優しさを残しているという設定で適役でした。
ブーミ・ペードネーカル トーマル役
村での悲惨な経験のために病気の子供を連れて逃げてきた女性の役で終始みすぼらしいみなり。デビュー作【Dum Laga Ke Haisha】(2015)の太った役もそうですが、本作も凄みすら感じさせる役作り。しかし今後は【Lipstick Under My Burka】(2017)のアランクリター・シュリーヴァースタヴァ監督の新作【Dolly Kitty Aur Woh Chamakte Sitare】でコーンコーナー・セーン・シャルマーとコメディということで楽しみです。
ランヴィール・ショウリーはダコイットの残党でラクナーと仲間割れする役。マノージュ・バージパーイーは特別出演ですが、ダコイットのリーダー役。
【Sonchiriya】
チョーベー監督の「農村ノワール」を観てみたい人、ブーミ・ペードネーカルの変身ぶりを見たい人、おすすめです。
by madanaibolly
| 2019-03-19 00:56
| レビュー