2013年 08月 29日
【Madras Cafe】 |

監督:ショージート・サルカール Shoojit Sircar 出演:ジョン・エイブラハム、ナルギス・ファクリー、ラーシ・カンナー(新人)
トレイラー
ストーリー
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1980年代の終わり、スリランカ内戦は泥沼化し、インド政府は勢力を拡大したタミル人反政府勢力であるタミル解放戦線(LTF)とその指導者アンナ・バスカランへの対応に苦慮していた。インド軍からなる平和維持軍は撤退を余技なくされており、インド政府はLTFの暴走が内戦の平和的解決を阻害すると考えていた。
インド陸軍の将校ヴィクラム・シン(ジョン・エイブラハム)は、対外諜報機関である研究分析局(RAW)から、スリランカ北部の主要都市ジャフナでバスカランと対立するグループに武器を供給する秘密工作の命令を受ける。だが、何者かによって事前に情報が漏れており、作戦は失敗、バスカランに武器を奪われる。
1990年代初め、RAWのジャフナの工作員から、バスカランのものとみられる重要な通信を傍受したとの情報が入る。バスカランがインドの「元首相」の暗殺を計画している疑いがあった。ヴィクラムは夫の身を案ずる妻のルビー(ラーシ・カンナー)を残し、再びジャフナに向かう。ヴィクラムは暗殺計画を阻止できるのか?
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【Madras Cafe】は、1983年から2009年まで続いたスリランカ内戦を舞台にした本格派のスパイ・スリラーです。主人公のインド陸軍将校で諜報員となるヴィクラムにジョン・エイブラハム。スリランカ内戦を取材する戦争ジャーナリストにナルギス・ファクリー、ヴィクラムの妻ルビーに新人のラーシ・カンナー。
監督は、精子ドナーを主人公にしたユニークなコメディ【Vicky Donor】(2012)のショージート・サルカール。前作とは作品のジャンルが全く異なるので驚きですが、サルカール監督は監督デビュー作【Yahaan】(2005)(出演:ジミー・シャーギル、ミニーシャー・ランバー)はカシミール問題をテーマにしており、むしろ政治のほうが得意なのかもしれません。
ボリウッドのスパイ作品というと、サイフ・アリー・カーンの【Agent Vinod】(2012)やサルマーン・カーンの【Ek Tha Tiger】(2012)のように、スタイリッシュでややコミカルなところもあるスパイ、いわば「ボリウッド版ジェームズ・ボンド」が活躍する作品が目立ちます。【Agent Vinod】などは、そうした部分が中途半端なために失敗したと思われるほどです。
これらのスパイ・ムービーに対し、【Madras Cafe】は本格派のスパイ・スリラーといえるでしょう。主人公のヴィクラムは優秀なスパイではあっても、超人ではありません。個人の能力を超えた政治状況の中で可能な活動をするだけであり、決してヒーローではありません。その代わり、作品としてはヴィクラムの活動の背景となる、インドとスリランカの関係、反政府ゲリラの動向、内戦の中心地であるジャフナの危険な雰囲気などが、現実味を持って描かれています。
ストーリーは、前半は内戦の渦中での危険な任務遂行の緊迫感、激しい戦闘シーンなどで、後半はラジヴ・ガーンディー元首相暗殺までのカウントダウンで時間との競争になり、全編を通じて飽きさせません。さらに、情報漏洩をめぐる謎解きや、ヴィクラムの妻ルビーのエピソードなども入って盛りだくさんです。
音楽
リアリティのあるストーリーの中で、音楽はやや背景に追いやられてしまった感じですが、それぞれの曲は作品の雰囲気を良く伝えています。
「Maula Sun Le Re」
「Jaise Milein Ajnabee」
ジョン・エイブラハム スパイとして秘密工作をするヴィクラム役

ジョンといえば、本来は役者志向が強い人だと思うのですが、ルックスが良すぎるのが災いして、なかなか演技力を発揮できる作品に恵まれない印象でした。【Desi Boyz】(2011)や【Force】(2011)、【Shootout at Wadala】(2013)などの筋肉前面の作品のほうが注目されるなど、噛みあっていませんでした。しかし、今回、優秀なスパイであるヴィクラム役でようやく良い役にめぐりあった気がします。監督のショージート・サルカールとは、監督の前作【Vicky Donor】をジョンがプロデュースしたつながりがあります。
ナルギス・ファクリー 戦争ジャーナリストのジャヤー役

ランビール・カプールの演技が評価の高かった【Rockstar】(2011)のヒロイン役でデビューしたナルギス。デビュー作で、純愛モノのヒロインなので、私はあれで十分だと思ったのですが、世間ではかなり悪口を言われました。なかなか2作目の出演のニュースもなく、心配していたのですが、今回はなんと戦争ジャーナリスト役を好演。全編をアメリカ英語で通したのは(ヒンディー語字幕付きでした)正解で、プロフェッショナルな雰囲気が良く出ていました。
ラーシ・カンナー ヴィクラムの妻ルビー役

「スパイの妻」ルビー役は今作がデビューのラーシ・カンナー。テレビCMのモデル出身。短い登場時間ながら、なかなか好印象でした。これから活躍しそうです。
【Madras Cafe】の背景になるのはスリランカ内戦と、その結果としてのラジヴ・カーンディー元首相暗殺事件。作品にはこれらがかなり忠実に取り入れられています。その上で、そこにフィクションとしてのヴィクラムの活動が織り交ぜられています。
スリランカのタミル人による反政府組織タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)は作品中ではタミル解放戦線(LTF)、その指導者ヴェルピライ・プラバカランはアンナ・バスカランになっています。ラジヴ・ガーンディー元首相は実名は出ず、ただ「元首相」と呼ばれています。
スリランカ内戦は政府軍の勝利で終結しましたが、内戦中に政府軍が行ったタミル系住民への残虐行為あるいは復興計画の遅れなどが問題になっており、今年になって国連安保理が戦後処理の迅速化を促す決議を行っています。また、インド国内ではラジヴ暗殺犯の死刑執行問題などがあり、現在も政治的には進行中の問題といえます。このようなセンシティブな問題を大胆に描いた【Madras Cafe】、特にスリランカ・タミルへの共感が強いタミル地方では、上映が危ぶまれています。
本格派スパイ・スリラーという、ボリウッドではそもそも層の薄いジャンルの作品だけに、さほど期待はしていなかったのですが、予想をはるかに超えた、非常に優れた作品でした。観る価値のある一本だと思います。
【Madras Cafe】
珍しいボリウッド本格派スパイ・スリラーを楽しみたい人、スリランカ内戦に関心のある人、ジョンの好演を見たい人、(今回はさほどアヒル口ではない?)ナルギスを見たい人、お勧めです。


by madanaibolly
| 2013-08-29 19:07
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