2012年 04月 28日
【Tezz】 |

監督:プリヤダルシャン Priyadarshan 出演:アニル・カプール、アジャイ・デーヴガン、カングナー・ラーナーウト、ザイード・カーン、モーハンラル、ボーマン・イラーニー、サミーラー・レッディ、マッリカー・シェラワット(アイテム出演)
トレイラー
ストーリー
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エンジニアのアーカーシュ(アジャイ・デーヴガン)はイギリスで、イギリス国籍を持つニキータ(カングナー・ラーナーウト)と結婚し、自分の会社も興しで順調だった。だが、ある日アーカーシュは移民局から不法滞在の疑いをかけられ、国外退去になってしまう。
4年後、イギリスに戻ったアーカーシュ。元従業員で移民のアーディル(ザイード・カーン)、メグナ(サミーラー・レッディ)とともに、復讐計画を実行する。ロンドンからグラスゴーに向かう列車に、一定速度以上になると起動し、その後時速60マイル以下になると爆発するという爆弾を仕掛け、解除方法と引き換えに大金を得るというのもだった。
だが、アーカーシュたちの計画に立ちはだかる3人の男がいた。テロ対策チームのアルジュン(アニル・カプール)、鉄道運行管理官のサンジャイ(ボーマン・イラーニー)、そしてたまたま列車に乗り合わせた警官のシヴァン(モーハンラール)。
減速できないままひた走る列車。グラスゴーまであと12時間。
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ベテラン俳優が共演するアクション・スリラー。アクションを『ファンタスティック・フォー 銀河の危機』(2007)、『ナショナル・トレジャー リンカーン暗殺者の日記』(2007)などのスタントを手掛けたガレス・ミルンという人がアクションを担当しているそうです。
観てみるとなかなか面白い。後述のようにベテラン俳優陣はそれぞれ持ち味を発揮。ストーリーはしっかりしているし、アクションのキレも良し。それならさぞや素晴らしい作品で大ヒットになるかと思いきや、いくつかの欠点のため、意外とそうはならないのではないかと思います。
ベテラン俳優陣の対決は素晴らしく、間違いなく作品の長所であり、みどころです。アジャイとアニル・カプールの活躍はある程度予測できましたが、意外にも非常にかっこいいのがボーマン・イラーニー。大惨事を避けるべく列車に気をつかいながら、犯人のアジャイと電話で交渉もします。また、列車に乗り合わせるという設定で他の人とは直接の接点はありませんが、マラーヤラム映画の大スター、モーハンラールも渋く活躍。これらに引っ張られるかのように、サミーラー・レッディはアクションの大立ち回りで新境地。
外国人アクション担当のためなのかどうかわかりませんが、個々のアクションのキレは抜群。中でもサミーラーのバイク・アクションとザイード・カーンが走って逃げまくるアクションは必見。でも、後半、アジャイとアニルがらみのところでは【Dabangg】みたいなアクション・シーン(ワイヤー+スローモーション)も。
こうした長所にもかかわらず、なお素晴らしいとまでいかない理由としては、事件の背景にイギリスにおける移民の迫害を持ってきたこと。最近とみに厳しくなっているイギリスの移民政策をテーマにしたことはタイムリーともいえますが、十分に描ききるにはあまりに大きな問題。ちゃんと描こうとすると娯楽的アクション・スリラーとしての側面を損なうことにもなりかねません。このため【Tezz】には終始、どこか重苦しい雰囲気が漂います。
それから、正統派アクション・スリラーとして個々のパーツ(演技、アクション)が優れていても、作品全体としては新味に欠けることは否定できません。出来は良いがどこか面白みに欠けるという点では先日のサイフ・アリー・カーンの【Agent Vinod】と同じ。今の流行からしても受けない可能性があります。
【Tezz】の一番の設定である「スピードを落とすと爆発する」という設定はご存じ『スピード』(1994)。こちらはバスですが。
『スピード』

私は昔『スピード』を観たとき、思い出した映画がありました。それは、高倉健主演の東映映画『新幹線大爆破』(1975)
『新幹線大爆破』 予告編
これは・・・【Tezz】そのものじゃないですか。事前に田舎の列車を実際に爆発させるのも、後半、平行する線路に同速度で列車を走らせて、乗客の移送を試みるのも同じ。もっとも、『新幹線大爆破』をプリヤダルシャンらが観ている可能性はどれほどあるかわかりませんが。
音楽
音楽は面白みなし。
マリッカー・シェラワットを使ったアイテム・ソング「Laila」は、監督のプリヤダルシャンが気に入らなかったという報道がありました。スニディ・チャウハーンの歌でさほど悪いとは思えませんが(特に良くもないですが)、作品中ではあまり良くないタイミングで入っており、全くの無駄使い。
「Laila」
アジャイ・デーヴガン 復讐計画を実行するアーカーシュ役

アジャイ・デーヴガンは本当に万能の俳優ですが、今回のように苦悩を背負って復讐にという役だと上手過ぎちゃうんですね。それでも爆弾犯人役。感情していいものかどうか迷ってしまいます。渋くてかっこいいのは間違いありませんが、今回は作品全体の位置づけと並んで、この苦悩する役の上手さがアダとなったような感じです。もっと憎たらしい悪役のほうがすっきりした気が。
アニル・カプール テロ対策班のアルジュン役

今や国際スターのアニル・カプール。インド映画は久しぶりです。自らがインド系であるためインド系の犯人には感じるところがありながら、私情を捨てて職務を遂行する役は、今のアニル・カプールにはぴったりです。もっとも、さすがにアクション・シーンでは年齢的にあの体力はウソだろうと思ってしまいましたが。
ボーマン・イラーニー 列車を救うべく苦闘するサンジャイ役

【Tezz】の私的ベストはこの人。鉄道運行管理官で、ふつうならテロ犯とか関係ないはずの仕事なのに、いざとなるととんでもない力を発揮する。いやあ、しびれます。【3 Idiots】(2009)の変人校長や、【Don 2】(2011)でゲス中のゲスみたいな悪役をやった人とは思えません。
モーハンラール 列車に乗り合わせる警官シヴァン役

登場時間も長くないし、長ゼリフがあるわけでも、大立ち回りがあるわけでもないのに、この存在感。さすがは大スターです。マラヤーラム映画の大スター。主人公がケーララに行く【Ekk Deewana Tha】(2012)では、映画館のモーハンラールのポスターはもはや「街の風景」の扱いでした。
サミーラー・レッディ 計画に加わるメグナ役

最近ヒンディー映画ではアイテム出演みたいなのが多かったサミーラー。テルグ映画ではいい役をやっており、ちょっともったいないなあと思っていたら、【Tezz】ではアクションで大活躍。それでも追いつめられてアジャイのほうを見るシーンの表情は絶品。個人的にはボーマンとこのサミーラーの表情で満足なんですが(単純)。最後はちょっとかわいそうでした。
カングナー・ラーナーウト アーカーシュの妻ニキータ役

それほど登場時間はないのですが、しっかりと印象は残します。最近は以前とうって変ってコメディへの出演が多いカングナーですが、やはりいい女優です。今回はゲスト出演程度ですが。
【Tezz】、インド色の薄さに、途中、舞台をインドに移したらどうかなどと想像しましたが、よく考えたら、インド鉄道に「速度を落とさず走り続ける」なんて無理。爆弾が起動してすぐに牛やトラクターにぶつかって速度低下、爆発でジ・エンド。
【Tezz】
オッサン俳優の活躍が見たい人、サミーラー萌えしたい人、ただのアクションより意味のあるアクションという人、お勧めです。



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by madanaibolly
| 2012-04-28 20:54
| レビュー
|
Comments(2)

いつも楽しく読ませてもらってます。。
>『新幹線大爆破』をプリヤダルシャンらが観ている可能性
あるかもしれないですよ。
10年前にもなるけどお隣P国滞在中にケーブルTVでやってました。
ケーブルTVの番組、インドのも多く観れるので。
ちなみに三谷幸喜の『ラヂオの時間』も。
くすくす笑う私に義弟が「バビ、シリアスな映画なのになんで笑うの?」って。
いつかヒントにされる日が来ますかね(笑)
>『新幹線大爆破』をプリヤダルシャンらが観ている可能性
あるかもしれないですよ。
10年前にもなるけどお隣P国滞在中にケーブルTVでやってました。
ケーブルTVの番組、インドのも多く観れるので。
ちなみに三谷幸喜の『ラヂオの時間』も。
くすくす笑う私に義弟が「バビ、シリアスな映画なのになんで笑うの?」って。
いつかヒントにされる日が来ますかね(笑)
アイシャ京さま やっぱり観てますかねえ。『スピード』からアイディアを得ただけだと、あそこまで似ないような気もしますし。プリヤダルシャンは以前、イランのマジッド・マジディ監督の『運動靴と赤い金魚』をリメイク(パクリ?微妙)しています。『ラヂオの時間』だったら、頼み込んでもボリウッド・リメイクしてもらいたいです。唐沢寿明の役、イムラーン・カーンでどうでしょう?