2011年 10月 20日
【Mod】 |

監督:ナゲーシュ・ククヌール Negesh Kuknoor 出演:ランヴィジャイ・シン、アーイシャー・ターキヤー・アーズミー、ラグヴィール・ヤーダヴ、タンヴィー・アーズミー
トレイラー
http://www.youtube.com/watch?v=PzbW0WHw7FU
ストーリー
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高原の小さな町に住むアラニヤ(アーイシャー・ターキヤー・アーズミー)は時計職人。自宅の工房で持ち込まれる時計の修理をして暮らしている。キショール・クマールを崇拝する歌手の父(ラグヴィール・ヤーダヴ)、食堂を営む叔母(タンヴィー・アーズミー)は同じ町に別々に住んでいる。
ある朝、見知らぬ男(ランヴィジャイ・シン)が、中に水が入ってしまった時計の修理を頼みにきた。男は無言で直った時計を受け取ると、折鶴に折ったお札を置いて立ち去った。男は次の日もやってきた。直したはずの時計にはまた水が。そして、さらに次の日も。アラニヤが聞き質すと男は昔同級生だったアンディだと名乗る。やがて2人はデートを重ねるようになる。
しかし、ときどきアンディが取る不可思議な行動をアラニヤは不審に思い、通っていた学校に行って尋ねることにする。昔からいた教員によると、アンディは10年前、事故で死んでいた!
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私の非常に好きな作品である【Dor】(2006)のナゲーシュ・ククヌール監督。監督デビューの【Hyderabad Blues】(1998)から、【Iqbal】(2005)、【Dor】と、非常に繊細なタッチの作品を作ってきましたが、ここしばらく、やや精彩を欠いていました。しかし、今回の【Mod】、もちろん【Dor】には遠く及びませんが、ククヌール監督のタッチがいくぶんなりと戻ったように感じる作品でした。もっとも、まだ戻りきっていないと感じるところもあり、嬉しさ半分といったところ。
高原の小さな村を舞台に、時計職人のアラニヤと父や叔母、村の人々のほのぼのとした人間関係を背景にしながら、突然現れたアンディによって思いもかけない事件が進行していくという設定は非常に優れています。ストーリーにはしっかりとした起承転結があります。美しい画面の作り。そしてなにより、画面から登場人物の人間像がしっかりと伝わってくるところ。このへんはククヌール監督ならではでしょう。
主人公のアラニヤは時計職人だったり、キショール・クマールを崇拝者の父がバンドの田舎バンドのボーカルだったり、アンディが折鶴を折ったりと、そういうシャレた設定もククヌール監督です。
キショール・クマール

物語の舞台となる高原の街ガンガー。実際には南インド、タミルナードゥ州の避暑地ウーティでのロケ。のどかな雰囲気は【Mod】の舞台にはぴったりです。最近の作品でウーティ・ロケがあった作品には、タッブーとシャルマン・ジョーシー出演の【Toh Baat Pakki】(2010)や、イラン映画『運動靴と赤い金魚』のリメイク【Bum Bum Bole】(2010)があります。【Mod】ではウーティの鉄道駅のシーンがあり、駅名表示が「ガンガー」に変わっていました。【Toh Baat Pakki】では「パーランプル」でした。
こうした舞台や小道具の設定を観ている限り、いいときのククヌール監督なのですが、後半以降に出てきて、ストーリーの中心になるのが、ややオカルトがかった精神病。このへんは逆に監督の不調の原因がまだ残っている感じを受けました。【8×10 Tasveer】(2009)のオカルト、【Aashayein】(2010)の死、そして【Mod】の精神病と、どうもククヌール監督が描きたいテーマはこの辺にあるようですが、それらは十分に消化できているとは言えません。さらに、【Dor】などの後で観客がククヌール作品に期待するものとが離れてしまっています。ククヌール監督の不調の原因はこうしたジレンマにありそうです。
また、最近は一般にシリアスなドラマの受けが悪くなっている気がします。そうした作品が作られ過ぎた反動なのかもしれませんが、ここしばらくはドラマが苦戦しているのは確かで、今年は【No One Killed Jessica】がヒットしたくらいでしょうか。さらに【Mod】は明らかにプロモーション不足なうえ、他の4作品と公開が重なっています。作品の出来以外であまりにも不利な条件が多すぎました。
アーイシャー・ターキヤー・アーズミー 時計職人のアラニヤ役

ククヌール監督作品には【Dor】、【8×10 Tasveer】に続いて3作目、監督のお気に入り女優ですが、アーイシャーのほうもククヌール作品では非常にいい演技で、お互いの相性の良さを感じます。どうも過小評価されがちですが、表情豊かな演技ができる女優だと思います。
今回のアラニヤは時計職人という映画に登場するなかでは珍しい職業。そこで思い出したのがアーイシャーが出演した【Sunday】(2008)。アーイシャーはそこで、これまた珍しい声優の役をやっていました。専門的職業が似合う雰囲気があるのでしょうか。
ランヴィジャイ・シン 突然現れた謎のアンディ役

【London Dreams】(2009)や【Action Replayy】(2010)で暗い役、テレビでは「Roadies」というシゴキ番組の司会をしているダーク俳優ランヴィジャイ。今回はふらりと現れて奇妙な行動をとる男の役。非常に難しい役で、なんとかこなすだけで精一杯という感じでした。アーイシャーのアラニヤに比べると、魅力に欠けるキャラクターでした。
タンヴィー・アーズミー アラニヤの叔母ガヤトリ役

(写真はこの作品のものではありません)
レストランを経営するしっかり者の叔母さん。アラニヤの恋愛を応援し、悩んだときには支えになります。なかなか良かったです。タンヴィー・アーズミーはシャバーナー・アーズミーの義理の妹(姉かも、不明)にあたります。2000年代になってからはあまり出ていませんでしたが、【Delhi-6】(2009)のあと、【Anjaana Anjaani】(2011)(プリヤンカーが入院する病院の女医)、【Aarakshan】(2011)(アミターブの妻)と、立て続けに出演しています。
ラグヴィール・ヤーダヴ アラニヤの父で田舎バンドのボーカル、アショーク役

(写真はこの作品のものではありません)
街のバンドでボーカルを務める父さん役。呑気で甲斐性なしですが、娘とは仲良し。ラグヴィール・ヤーダヴ、この前見たのは【Gandhi to Hitler】(2011)ヒトラー役!実際に歌手でもあり、バンドの曲は本人の歌でした。
作品の前半はククヌール色たっぷりで楽しめると思います。後半はストーリーとしては面白いものの、いろいろな意味でやや消化不良。しかし、アーイシャーのアラニヤは最後まで魅力的です。
【Dor】
ククヌール監督のファンの人、アーイシャーの好演を見たい人、インドのヒル・ステーション(避暑地)が好きな人、お勧めです。



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by madanaibolly
| 2011-10-20 16:53
| レビュー
|
Comments(5)

こんにちは。
ご存知かもしれませんが、この映画は台湾映画「沈睡的青春/Keeping Watch」のリメイクだそうです。日本では「午後3時の初恋」というタイトルで公開されました。主人公の女性がかわいかったのが印象に残ってますが(笑)、物語は平凡な病理ミステリー(?)で、結末はアンハッピーエンドでした。
ポポッポーさんのレビューを読む限り、【Mod】の方が出来はよさそうという気がします。(続く)
ご存知かもしれませんが、この映画は台湾映画「沈睡的青春/Keeping Watch」のリメイクだそうです。日本では「午後3時の初恋」というタイトルで公開されました。主人公の女性がかわいかったのが印象に残ってますが(笑)、物語は平凡な病理ミステリー(?)で、結末はアンハッピーエンドでした。
ポポッポーさんのレビューを読む限り、【Mod】の方が出来はよさそうという気がします。(続く)

ちなみに、
>折鶴に折ったお札
オリジナルではお札を紙風船に折っていました。細かいところを色々変えているようですね。
そういえば【Dor】はマラヤーラム語映画のリメイクでしたが、オリジナルは観てないものの、【Dor】の完成度からすると、オリジナルよりも良かったのではないかと思います。ククヌール監督はリメイクの名手かも。
MIid-DAYの記事
http://www.mid-day.com/entertainment/2011/may/260511-Ayesha-Takia-Nagesh-Kukunoor-remake-Taiwanese-film-Keeping-Watch.htm
(以上、長文失礼しました)
>折鶴に折ったお札
オリジナルではお札を紙風船に折っていました。細かいところを色々変えているようですね。
そういえば【Dor】はマラヤーラム語映画のリメイクでしたが、オリジナルは観てないものの、【Dor】の完成度からすると、オリジナルよりも良かったのではないかと思います。ククヌール監督はリメイクの名手かも。
MIid-DAYの記事
http://www.mid-day.com/entertainment/2011/may/260511-Ayesha-Takia-Nagesh-Kukunoor-remake-Taiwanese-film-Keeping-Watch.htm
(以上、長文失礼しました)
kubo様 オリジナルがあるとは知りませんでした。情報ありがとうございます。ハリウッドのリメイク(パクリ)ならばある程度こちらでも情報があるのですが、アジア映画のリメイクだったりするとなかなか分かりません。「午後3時の初恋」、日本に行ったときにでも観てみようと思います。【Mod】は「平凡な病理ミステリー」からはジャンルをずらして【Dor】風にしていますが、さりとてそれで完成したかというとそうでなく、というくらいです。

こちらを見て、まったくマークしていなかった、Modを見ました。なかなかの映画ですよね。私もDorが大好きなのですが、この監督のほとんどフェミニンともいえる、繊細な演出や女性の描き方が好きです。Dorのアイーシャはほんとうに素晴らしかったですが、そのあと、ネットの写真をみると、彼女が結婚してド派手なメークにあまりセンスの良くない洋服を着たりして変貌して行くのをみると、すごく残念な感じがありましたが、Modを見て、この人はまだ女優としていけるんだな、と思いました。この映画、商業的には失敗したみたいですが、良質で新鮮な映画を彼にはこれからも作って行ってほしいですねー。
fromNY 様 ニューヨークからコメントありがとうございます。アーイシャーは【Dor】の前も「ド派手なメーク・・・」で、なぜかインターネットカフェのPCの壁紙によく使われてました。なので【Dor】のときには、「あのアーイシャーが」という驚きが大方でした。しかし、【Dor】以後はやっぱりもとに戻ってしまいました。でも、【Mod】を見ると、明らかにこっちのほうがかわいいですよね。アーイシャー、ククヌール監督ともに今後に期待してます。