旧作探訪 《The Great Gambler》(1979) |
監督:シャクティ・サマンタ、出演:アミターブ・バッチャン、ズィーナト・アマーン、ニートゥー・シン、マダン・プリー、プレーム・チョープラー、イフテカル、ヘレンほか
ストーリー
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下町のギャンブラー、ジャイ(アミターブ・バッチャン)はその腕を見込まれて、アンダーワールドのドンであるサクセーナの下で働くことに。その仕事とはサクセーナのカジノで要人から金を巻き上げること。サクセーナはそうして金を巻き上げた政府官僚を脅し、インドの安全保障に関わる最新兵器の設計図を入手。ある外国政府のエージェントに売却しようとする。
警察はサクセーナの陰謀を嗅ぎつけ、取引がイタリアで行われることを知る。そこで腕利きの捜査官ヴィジャイ(アミターブ・バッチャン二役)がローマに派遣される。サクセーナの手下のラメーシュはヴィジャイの動きを見張らせるため愛人のダンサー、シャブナム(ズィーナト・アマーン)をヴィジャイと同じ飛行機に乗せる。
一方、サクセーナは、リスボンに住む旧友の富豪ディープチャンド(イフテカル)に自分の息子と称してジャイの写真を送り、娘マーラー(ニートゥー・シン)との結婚を承諾させた。ジェイを息子と偽ってマラと結婚させ、財産を相続させようというのだ。サクセーナはジャイをリスボンに向かわせる。しかし、行き違いからヴィジャイの乗るはずだった飛行機に乗ったのはジャイ。シャブナムはジャイをヴィジャイだと勘違い。さらに、二人はカイロで足止めを食らう。結局ジャイはラメーシュたちに脅迫され、しぶしぶ彼らに協力することになる。いっぽう、先にローマについたヴィジャイを出迎えたのはマラ。マーラーはヴィジャイをジャイと勘違いする。ヴィジャイはジャイの居所をつかむため、ジャイのふりを続けることにする。
瓜二つのジャイとヴィジャイをめぐり国際的陰謀が展開する。ヴィジャイは設計図を取り戻せるのか?
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監督のシャクティ・サマンタは1950年代から1980年代までヒット作を生み出し続けた大監督です。「旧作探訪」ではすでに《Howrah Bridge》(1958)と《An Evening in Paris》(1967)を紹介しています。
《Howrah Bridge》(1958)
http://popoppoo.exblog.jp/12924694/
《An Evening in Paris》(1967)
http://popoppoo.exblog.jp/12924474/
主演のアミターブ・バッチャンは、前年の1978年には《Muqaddar Ka Sikandar》,《Trishul》,《Don》と年間興行成績の上位3作にいずれも出演しているという人気絶頂ぶり。ズィーナト・アマーン、ニートゥー・シンの二人の人気女優を揃え、アイテム・ガールにヘレンを出演させています。さらに、オランダ、ポルトガル、イタリア、エジプトの海外ロケという徹底した力の入れよう。しかし、興行的にはフロップに終わりました。材料を豪華にし過ぎたために肝心の作りが甘くなるという大作にありがちな落とし穴にはまった感じです。
やはり、あまり出来が良くないと感じさせるところがいくつかあります。まずは、ストーリーが複雑過ぎ。ジャイとヴィジャイのそれぞれの話が同時進行するだけでなく、途中でお互いがお互いになりすましたり、回りから勘違いされたりと混乱させられます。それを助長しているのが、二人の外見にほとんど差がないこと。瓜二つという設定なので当然といえば当然なのですが、エリート捜査官と下町のギャンブラー、何か観客にとっての目印があっても良かったのではないかと思います。そして、複雑なストーリーを展開させるために話の進行が駆け足で、人物描写が浅くなりがち。ジャイとシャブナム、ヴィジャイとマラの恋物語も中途半端で終わっています。
そして、タイトルの《The Great Gambler》で、ジャイがギャンブラー。するとローマかベニスか、どこかのカジノで敵と大勝負、掛金がみるみると釣り上がっていく・・・というのを想像します。ところが、全く勝負シーンがありません。カジノは出てきますが、勝負のテーブルに座ることすらありません。なんか騙されたような。
しかし、現在から見ると当時のボリウッドの「娯楽大作」感が垣間見えて楽しいです。ふんだんに予算を使った海外ロケはやはり見どころ。当時でも海外ロケはありましたが、ここまで多くの場所で豪華にやるのは珍しいです。
カイロ
【Kabhi Khusi Kabhi Gham】(2001)や【Singh Is Kinng】(2008)の20年以上も前にすでにエジプトに来ていました。
ナイル河畔、ピラミッド、ビラミッド脇のホテル
ズィーナトがエキゾチックな衣装でベリーダンス(風)を踊ります。
「Raqqasa Tha Mera Naam」
ローマ
ヴェニス
【Bachna Ae Haseeno】(2008)や【Kambakkht Ishq】(2009)よりもずっと前にヴェニスです。
思いっきりゴンドラ・ソング
「Do Lafzon Ki Hai Dil Ki Kahani」
そして当時の豪華キャスト
アミターブ・バッチャン (ギャンブラーのジャイ/ヴィジャイ捜査官役)
アミターブが二役(もしくはそれ以上)をやった作品はこれまで優に10を超えますが、【The Great Gambler】もその一つです。前年の【Don】と同じく、上流階級と下層という二役で、アミターブの二役の典型とも言えますが、【The Great Gambler】では両者の差がうまく出ていません。アミターブは基本的にギャンブラー役は似合うだけに、カジノでの勝負シーンがないのも残念です。
ズィーナト・アマーン (ダンサーのシャブナム役)
今作は悪党の愛人という設定で、前半はずっと悪役。ジャイに恋してようやく後半にヒロインになるという役。ファッショナブルなところは相変わらず、いつものズィーナトです。当時、海外ロケの作品に監督が一番出演させたい女優だったのではないか想像してしまいます。
ニートゥー・シン (富豪の娘マーラー役)
ニートゥーといえば、将来の結婚相手であるリシ・カプールの共演が話題になりますが、意外とアミターブと共演の作品も多いです。もっとも、同じ作品に出演しているという意味での共演であって、アミターブと恋仲になる作品は少ないです。【Deewar】ではシャシ・カプール、【Amar Akbar Anthony】ではリシ・カプールがお相手。アミターブとは今作と【Yaarana】(1981)くらいでしょうか。
「Pehle Pehle Pyar Ki Mulakate」
リシ・カプールの結婚後は映画界から離れていましたが、【Love Aaj Kal】(2009)で26年ぶりに銀幕に復帰。ほんのちょっとの作品でしたが、若い頃とは違ったエレガンスさが話題になりました。次はリシ・カプールとの共演で本格的に復帰するという話もあります。
プレーム・チョープラー (悪党ラメーシュ役)
リバイバルでブームのプレーム・チョープラーはいつもながらの悪党役。
名監督に豪華キャストで、ふんだんに海外ロケを行った「大作」も失敗する、そこが映画作りの難しいところです。しかし、70年代風の衣装を身にまとったバッチャン、ズィーナトらの海外ロケ。不思議なレトロ感が味わえる作品です。
【The Great Gambler】
「大作」好きな人、一昔前のボリウッドの海外ロケ・シーンを見てみたい人、ギャンブラーと捜査官はアミターブに良く似合うと思う人、海外でもおしゃれなズィーナトを見てみたい人、お勧めです。