2010年 03月 27日
【Well Done Abba】 |

【Welcome to Sajjanpur】(2008)のシャム・ベネガル監督の新作ですが、今週公開の作品のなかでは一番小さな扱いでした。すると上映数が少なかったり、不便な上映時間だったりと観る側はなかなか大変になります。
監督:シャム・ベネガル Shyam Benegal. 出演:ボーマン・イラーニー、ミニーシャ・ランバー、サミール・ダッタニ Sameer Dattani、ラヴィ・キッシャン、イラ・アルン、アナイタ・ナイール、ヤシュパル・シャルマ、ラジット・カプール、ソナリ・クルカルニ
トレイラー
ストーリー
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ムンバイの会社で役員の運転手を勤めるアーマン(ボーマン・イラーニー)。休暇で田舎に帰ったものの、予定を過ぎてもなかなか戻ってこなかった。ようやく戻ったアーマンはクビにされかけるが、「最後の仕事」になるかもしれない車のなかで、田舎での出来事を語り始めた。
ハイデラバードにほど近い村に戻ったアーマン。家で待っているのは娘のムスカン(ミニーシャ・ランバー)、弟のレヘマーン(ボーマン・イラーニー2役)とその妻サリマ(イラ・アルン)。アーマンにはやることが山積み。そろそろムスカンの結婚も考えなければならず、弟夫婦は近所で問題を起こすばかりか、いつもアーマンに金をせびってばかり。
そんなときアーマンは政府の制度で、自分の土地に井戸を掘れることになった。腐敗した官僚制度での手続をなんとか済ませたアーマンだが、待てど暮らせどいっこうに井戸が掘られる気配がない。そして、村にはそんな掘られたことになっている井戸がいくつもあることがわかった。アーマンはムスカンの手を借りて警察や役所に訴えることにするが・・・・。
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コメディ・タッチの社会風刺映画です。ベネガル監督の前作【Welcome to Sajjanpur】が同じインドの農村を舞台にしつつも普遍性のあるテーマだったのに比べ、【Well Done Abba】はインド特有の題材が用いられ、より社会風刺の色が強くなっています。なので、どうもよく分からなかったり、ピンと来ない部分が多かった気がします。アーマンが腐敗した役所の手続で右往左往する前半は少し退屈するところもあります。
例えば、ボーマン・イラーニー演じるアーマンが井戸堀り資金を政府から受けられるのはアーマンが「マイノリティ」コミュニティに属しているから。インドの開発政策ではムスリムや後進カーストのような「マイノリティ」が優先して扱われることがよくあります。また、手続の途中で必要になり、賄賂を使ってまで手にいれるのBPL(Below Poverty Line 貧困線以下にいること)証明書。BPLは名目上は貧困の認定ですが、これにより政府からの補助が受けられるようになったりと、実際には一種の利権になることがあります。さらに、アーマンが助けを求めて、村の自治組織(パンチャヤット)の議長をしている女性のところに行くと、口を出すのは夫のほうで、妻は何一つ意見できない。これは名目上妻を役職に付けながら、実権は夫が握っているという「代理 (proxy)」といわれる地方自治の大きな問題の1つです。さらに、アラブの富豪に買われていく「インド人妻」も出てきたりと、インドの社会問題が山盛りです。
後半は村人を動員して州首相に直訴しに行ったり、ムスカンの恋愛が進展したりと面白くなっていきます。
個性を持ったキャラクターが大勢登場しますが、複数の人間模様をきっちりと織り込んだ【Welcome to Sajjanpur】のときと違い、ボーマン・イラーニーを初めとする中心の数人以外は描ききれていない気がしました。ボーマン・イラーニーの2役での弟夫婦などは中途半端でした。
ボーマン・イラーニー 「よくやった!」アーマン役

【3 Idiots】でフィルムフェア助演男優賞をとりましたが、個人的にはああいうエキセントリックな役より、今回や【Honeymoon Travel Pvt. Ltd.】(2007)、【Little Zizou】(2009)のような抑えた演技のときのほうが好きです。2役でやった弟役はまあ余興でしょうか。今やすごい売れっ子で、今週も【Hum Tum Aur Ghost】と同時公開で、来月には【Housefull】も待っています。
ミニーシャ・ランバ しっかり者の娘ムスカン役

またまた10代という設定です。【Bachna Ae Haseeno】(2008)、【Kidnap】(2008)で、なんと無茶な!と思ったんですが。年齢相応に大人顔だと思うのですが。【Shaurya】(2008)などのほうが自然でいいです。ただし、今回は年齢設定を無視すれば、なかなか可愛いし、演技も良かったです。
イラ・アルン 人騒がせな義妹サリマ役

プレイバック・シンガーと兼業の人ですが、最近は女優としてのほうが活躍が目立っているでしょうか。なんといっても、【Jodhaa Akbar】(2008)でアイシュワリヤをネチネチといじめる役が印象にあります。今回は全然違うコメディ役で楽しみにしていたのですが、出番が少なくちょっと残念でした。
ほかにシャム・ベネガル監督お気に入りのラヴィ・キッシャンは公共工事局の技師ですが、相変わらずのケダモノぶりでした。
ちょっとだけの出演でしたが、【Chak De India】(2007)でチーム一のオシャレなアリヤ役のアナイタ・ナイール Anaitha Nair. 次作はナゲーシュ・ククヌール監督【Aashayein】でジョンと共演です。

インド社会の興味深い問題を盛り込んでいますが、ドラマとしてはややまとまりに欠け、観客を作品に引き込む力が弱いです。ただのコメディではなく風刺コメディとはいえ笑える部分も少ない気がしました。
【Well Done Abba】
インド農村の諸問題に触れたい人、抑え目演技のボーマン・イラーニーが見たい人、年齢設定はともかくミニーシャはいい女優さんだと思う人、お勧めです。



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by madanaibolly
| 2010-03-27 03:14
| レビュー
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