2010年 02月 03日
【Road to Sangam】 |

設定を見て、なかなか面白そうだと思っていた作品です。しかし、中小作品の宿命で当初の予定からかなり遅れての公開です。
監督:アミット・ライ Amit Rai. 出演:パレーシュ・ラワル、オーム・プリー、パワン・マルホートラほか。
トレイラー
ストーリー
*******************************************************************
フスマトゥッラー(パレーシュ・ラワル)はアラハバードに住む敬虔なムスリムの自動車整備工。ある日、政府から古いフォードV8型自動車のエンジン修理を依頼される。何も知らずに引き受けたフスマトゥッラーだが、実はそのフォードV8はマハトマ・ガンディーの遺灰をアラハバードのサンガム(ガンジス川とヤムナー川の合流地点、聖地)に運ぶのに使われたもので博物館にあったものだった。このたびオリッサの銀行の貸金庫からガンディーの遺灰の一部が新たに発見されたため、再度サンガムに流す儀式を行うためこの自動車を使うという計画だった。
しかし、アラハバードの町は折からの爆弾事件で緊張の真っ只中。ムスリムの政治団体は政府の対処に抗議して店などをすべて閉めるストライキを行うことを決定した。ストライキに背いて修理を続けるフスマトゥッラーはムスリム社会の指導者カスーリー(オム・プリ)などから非難される。
*******************************************************************
映画祭向けの作品です。設定が面白いうえ、誠実に作られています。ただ、娯楽作品としてみると、やや単調で面白みに欠ける印象です。
インドにおける宗教問題はふだんは沈静化していても、何かをきっかけに突如として噴出することがあります。インドの宗教問題を扱った映画はそれこそ無数に作られていますが、この「何か」を何にするかが非常に重要になります。ムスリム寺院の破壊(【Bombay】(1995))や列車の焼き討ち(【Firaaq】(2009))などのように大きな事件から怪物の噂(【Delhi-6】(2009))のように身近なものまでさまざまです。【Road to Sangam】はガンディーの遺灰を運んだ自動車を小道具に据えた設定は実にユニークです。近代文明に批判的だったガンディーと文明の象徴である自動車のアイロニー、そしてそれが現代に現れて人々を翻弄する面白さがあります。
もう1つ、ガンディーの遺灰の一部が発見され、再度ガンジスに流されるという設定ですが、まるで合わせたかのごとく、南アフリカでガンディーの遺灰が海に流されるというニュースがあったばかりです。
http://www.47news.jp/CN/201001/CN2010013001000631.html
実は鑑賞前、私は誤った予測をしていました。パレーシュ・ラワル演じる自動車整備工フスマトゥッラーが圧力にさらされるのは、ムスリムなのにガンディーに関わる仕事を引き受けたためだと思っていました。パキスタンの建国に反対したムスリムの敵としてガンディーだと。ところが、実際は大違いで、宗教指導者が決定したストライキを破ったことが理由でした。現在のインドでは、ヒンドゥー、ムスリムに関わらずガンディーは崇拝されており、ガンディー批判はタブーといっても良いでしょう。ですから、私の予測のようなストーリーは決してありえないことになります。いちおう弁解として、独立前後には必ずしも現在のようなガンディー像が確立していたわけではないことを付け加えておきます。
さて、作品ですが、この設定を必ずしも十分に生かし切れていない気がします。もちろん主人公はそれがガンディーの遺灰を運んだ自動車であるからこそストを破ってまで修理するのですが、ムスリム社会からの圧力は自動車とは無関係です。特に中盤、「ガンディーの遺灰を運んだ自動車」から離れ、もっぱら主人公とムスリム社会とのやりとりが淡々と進んでいきます。いっぽう、修理したエンジンがかかるシーン、映像的にも素晴らしいエンディングの儀式のシーンは感動的でした。
マーケットの様子や自治会の役割をするモスク(イスラム寺院)の管理委員会の集会など、北インドの地方都市のムスリム社会が非常にローカルな部分まで描かれているところは見所です。
ゲスト出演でガンディーの曾孫であるトゥシャル・ガンディーが出演しています。ガンディーの次男であるマニラールの孫であり、【Gandhi My Father】(2007)で描かれた長男ハリラールとは別の血筋になります。ちなみに上のニュースに出てくるエラ・ガンディーは伯母に当たります。
パレーシュ・ラワル

ムスリム社会の圧力にさらされる自動車整備工フスマトゥッラー役
自身がグジャラート出身のヒンドゥーで、映画の中でもコメディ、シリアスに関わらずほとんどがヒンドゥー役です。ムスリムを演じた作品はあるのかもしれませんが、ちょっと記憶にありません。しかも、今週公開の【Rann】ではギラギラした右翼政党の党首役(もちろんヒンドゥーです)でした。ですから、最初のうちはやや違和感がありました。しかし、さすがは名優。次第に違和感は薄れ、最後には立派なイスラム教徒になっていました。(いつもと違い)決してキレたりせず、ときにオドオドした様子も見せながら、しかし最後には意思を通すという役でした。出番が少ないオム・プリは別にして他の俳優さんたちとは格が違い、彼の回りだけ世界を作り出している感すらしました。
【Road to Sangam】
たまには映画祭系の作品も観たいという人、パレーシュラワルのムスリム役は気になるという人、ガンディーの遺灰から歴史に想いをはせてみたい人、お勧めです。

町のムスリム指導者の面々

遺灰をサンガムに運ぶフォードV8型

サンガムで遺灰を撒くシーン。美しいです
■
[PR]
by madanaibolly
| 2010-02-03 23:45
| 過去のレビュー(再録分)
|
Comments(0)