【Raid】 |
出演:アジャイ・デーヴガン、イリヤーナー・デクルーズ、ソウラーブ・シュクラー
トレイラー
ストーリー
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1980年代初めのウッタル・プラデーシュ州ラクナウ。税務局の副局長としてアマイ・パトナイク(アジャイ・デーヴガン)が赴任してきた。アマイは家では妻マーリニーと仲良く暮らしているが、いったん職務となると職務に忠実で決して不正を許さない、一徹な男だった。
仕事を開始したアマイにある日、匿名の電話があった。地元の有力者「タウジー」ことラーメーシュワル・ラージャージー・シン(ソウラーブ・シュクラー)が税金逃れのため自宅に莫大な財産が隠されているという密告だった。密告者は決して正体を明かそうとしないが、密告な内容は具体的であり、いたずらなどではなさそうだった。アマイは密かに準備を進め、ある日、ラーメーシュワルの自宅の強制捜査に踏み切る。果たして隠し財産を見つけ、ラーメーシュワルを脱税で告発することはできるのか?
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1980年代初めのラクナウを舞台に税務調査官(いわゆるマルサ)と不正蓄財をしている悪徳政治家の戦いを描く作品です。
監督は【No One Killed Jessica】(2011)のラージ・クマール・グプター。前作のコメディ【Ghanchakkar】(2013)がいまひとつでしたので、今回再び社会派の作品に戻って期待です。
いまインドでは、数年前に現在のモディ首相の政権が発足して以来、汚職や脱税の摘発に熱心です。本作が公開された時点でも大手国営銀行が関与した巨大不正事件が発覚し、連日のように捜査の様子が報道されています。本作タイトルの「Raid」は汚職の証拠や隠し財産を見つけるための強制的な立ち入り調査の意味です。本作は舞台は1980年代に置いていますが、いまのインドにとっては非常にタイムリーなテーマになっています。
ストーリーのほぼ全編がアジャイ演じる税務調査官アマイ・パトナイクと地元の有力者ラーメーシュワルの対決ですが、バトルの基本は神経戦。税務調査で踏み込んだアマイに対し、ラーメーシュワルが「(隠し財産が)見つからなかった、どうなるわかってるんだろうな?(クビだぞ)」と脅しをかけるところから始まって、調査を中止させようと中央政府の大臣に電話をかけさせたりと、調査が進む一方で、2人のジリジリとした戦いが繰り広げられます。
動きが派手なわけではありませんが、とにかくスリリングで面白い。前半は隠し財産が見つかるかどうかというスリル。後半はラーメーシュワルが仕掛けてくるさまざまな圧力にアマイはピンチの連続です。
強制立ち入り調査のヴィジュアル化もよく出来ています。日本ならば、スーツを着た大勢の調査官が捜査対象の事務所などから証拠書類の入った箱を持ち出すシーンが報道されますが、インドの場合はちがいます。重要なのは書類ではなく、なんらかの形での現物の資産が隠されているハズだという確信から、現場に寝泊まりして調査を続けます。アマイは何日も家に帰らず、他の調査官たちとともに床に雑魚寝でした。
踏み込まれたラーメーシュワルの家族の面々も個性的。中でもひとり空気を読めず、無意識に捜査の手がかりを明かしてしまうお祖母さんがよかったです。また、おそらく密告者は家族の誰かだろうという推測が成り立つため、いったい誰なのかという興味も沸きます。
しかし、作品の一番のみどころはインドの資産隠しのすさまじさです。ネタバレになるのであまり言えませんが、唖然とするシーンが連続です。こちらは現実のニュースでそうした隠し財産のシーンに多少は慣れていると思っていたのですが、そんなものではありませんでした。
基本的に静かな展開なのですが、クライマックスにはこれまたインド的な派手なシーンが用意されていて構成もバッチリです。
面白い題材を使ってよく考えられた、すごくインド的なスリラーの傑作です。観て損はありません。
音楽
音楽はアミト・トリヴェディですが、過去のカバー曲が2曲あることもあり、あまり彼の特徴は出ていませんでした。アジャイと妻マーリニーとの愛情シーンの歌がもっぱらですが、作品中で歌が入るタイミングはあまり良くありませんでした。ラクナウの遺跡を見るにはいいです。
「Sanu Ek Pal Chain」、「Nit Khair Manga」の2曲はパキスタンのカッワーリー歌手ヌスラト・ファテー・アリー・ハーンの曲を彼の甥であるラーハト・ファテー・アリー・ハーンが歌っています。
「Sanu Ek Pal Chain」
「Nit Khair Manga」
「Black Jama Hai」
アジャイ・デーヴガン IRSアマイ・パトナイク役
アクションからコメディまでなんでもやるアジャイですが、本作の税務調査官役はまさに適役。新たな任地に赴任してくるという設定は【Gangajal】(2003)と同じ。こちらは警察官でしたが。一徹な強い男という意味では【Drishyam】(2015)などにも近いかもしれません。
イリヤーナー・デクルーズ アマイの妻マーリニー役
(本作プロモーションで)
夫が規則だからと話そうとしない事件の話を聞きたがったりすることころもありますが、夫の仕事に理解を示す「良き妻」の役。それにしてもイリヤーナー、ボリウッドに来てからは【Barfi!】(2012)、【Rustom】(2016)など「妻」(単に結婚しているという意味ではなく)が多いです。特にインド的な顔立ちというわけではないのですが、どうしてでしょうか。
ソウラーブ・シュクラー タウジーことラーメーシュワル・シン役
【PK】(2012)の教祖に、【Jolly LLB 2】(2013)の判事など強烈な印象を残す脇役です。「悪役が良いスリラーは面白い」という点からすると、本作は申し分なし。
【Raid】
ピンチに陥ったときのアジャイを見るのが好きな人、モノを隠すあるいは探すことに自信がある人、人妻イリヤーナーに弱い人、おすすめです。