【Ittefaq】 |
出演:シッダールト・マルホートラ、ソーナークシー・シンハー、アクシャイ・カンナー
トレイラー
ストーリー
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ムンバイ、ある雨の夜。パトロール中の警察の車の前に、部屋着のままの女性が飛び出してきた。女性は近くのマンションに住むマーヤー(ソーナークシー・シンハー)。部屋に押し入った男の隙を突いて飛び出してきたのだという。マーヤーと警官が部屋に戻ってみると、殺されたマーヤーの夫の死体とそのそばに立ち尽くす男。警官は男を逮捕する。
逮捕された男はイギリス国籍の有名作家ヴィクラム(シッダールト・マルホートラ)。新作の発表会でムンバイ市内のホテルに滞在中、妻が不審な死に方をし、彼自身が警察を呼んだにもかかわらず、警察が来るとホテルから逃げ出したのだった。
ヴィクラムは尋問で、ホテルを逃げ出したのは警察が明らかに自分を疑っているのがわかったからで、マーヤーの部屋に入ったのは逃走の途中けがをして立ち寄った建物にいたマーヤーに助けを求めたのだという。マーヤーは彼に親切で、彼を誘惑すらしてきた。後からやってきた彼女の愛人と思われる男に殴られて気を失い、気が付くと男の死体のそばにいて、警察がやってきた。ヴィクラムは自分は男を殺していないと主張した。
事件を担当する刑事デーヴ(アクシャイ・カンナー)が調べるうち、マーヤーの証言にも食い違いがあることがわかってきた。マーヤーが愛人とともに夫を殺し、ヴィクラムに罪をかぶせた可能性も否定できない。
真っ向から食い違う証言をする容疑者の男女2人。いったいどちらが真犯人で、事件の真相はどうだったのか?
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ヤシュ・チョープラー監督によるスリラー【Ittefaq】(1969)(出演:ラジェーシュ・カンナー、ナンダー)のリメイク。タイトルの「ittefaq」は「偶然」の意。本作監督のアバイ・チョープラーはそのヤシュ・チョープラー監督の兄で有名プロデューサー、B.R.チョープラーの孫にあたります。つまり本作はオリジナルから48年を経て、元の監督の又甥(甥の息子)によってリメイクされた作品です。そこで制作は当然ヤシュ・ラージ・フィルムズかと思いきや、カラン・ジョーハルのダルマ・プロダクションとシャールクのレッド・チリ・エンターテイメント。
出演は容疑者二人にシッダールト・マルホートラとソーナークシー・シンハー。刑事役にアクシャイ・カンナー。
インド映画に一人二役の作品が多いことはよく知られていますが、なぜ多いのかについては明確な答えがありません。一つの理由としては、二役で容易になりすましや入れ替わりができることで奇抜で斬新な設定やストーリーが可能になることでしょう。最近ではシャールク・カーンの二役【Fan】(2016)が典型です。
あくまで想像ですが、二役が多い別の理由はスター俳優が異なる側面を見せることで、観客はいわば「一粒で二度おいしい」思いができるからではないでしょうか。厳密な意味での二役の作品ではありませんが、実質的に二役が楽しめる【Ittefaq】を見ているとそんな思いに駆られます。
容疑者二人のまったく異なる証言を映像化することにより、主演のシッダールト・マルホートラとソーナークシー・シンハーはそれぞれまったく異なる2人の人物を演じることになります。シッダールトは、妻を殺し逃亡先でも殺人を犯す男なのか、それとも妻殺しの罪を着せられそうになって逃げたところ別の殺人の犯人にも仕立て上げられる不運な男なのか。ソーナークシーも殺人犯に家に押し入られ夫を殺される不運な女か、逃亡犯を利用して夫を殺す悪女なのか。二人ともどちらの演技も良いため、どちらの証言が真実なのかまったくわからなくなります。
【Ittefaq】は容疑者の証言の映像化という映画ならでは技法が見どころですが、一方で二つの証言のどちらが真実なのかで思い悩む刑事を排することで作品に現実味を与えてバランスを取っています。容疑者役の二人は「二役」の効果を発揮させる好演。そして刑事役のアクシャイ・カンナーは実に存在感のある演技でした。
【Ittefaq】は単純にストーリーも良くできていますが、それに加えて、映画作品であることを生かし、出演する俳優の魅力や演技も楽しめるようにした優れたスリラー映画になっています。
音楽
オリジナルの【Ittefaq】(1969)は当時としては珍しい作中に曲がない作品でした。リメイクの本作も音楽はプロモ用。
「Ittefaq Se (Raat Baaki)」
シッダールト・マルホートラ ヴィクラム役
本人の性格なのか「いいひと」役が多いですが、実際には【Ek Villain】(2014)のような悪の要素が入った役もできます。本作はその両方が出せる役で、役者としての力量を見せられてよかったのではないでしょうか。
ソーナークシー・シンハー マーヤー役
オリジナル【Ittefaq】(1969)に出演したナンダーは上品な人妻役などが得意な女優でした。ソーナークシーはそれとは異なる役作りでしたが、「実は悪女かもしれない人妻」という役を上手くこなしていました。前作【Noor】(2017)が当たらなかっただけに、本作は今後への良いきっかえになりそうです。
アクシャイ・カンナー 刑事のデーヴ・シャルマー役
【Ittefaq】はアクシャイ・カンナーの作品とは言わないまでも、アクシャイがいてこその作品でした。さすがです。前作【Mom】(2017)に続いての刑事役。もともと演技力は高く評価されていたにもかかわらず、突如映画から遠ざかっていましたが、もう完全復活と言っていいでしょう。これからが楽しみです。
オリジナル【Ittefaq】(1969)
【Ittefaq】
上質なスリラー映画を観たい人、シッダールトとソーナークシーの好演を見たい人、アクシャイ・カンナーの復活を期待している人、おすすめです。