【Secret Superstar】 |
出演:ザーイラー・ワースィム、メーヘル・ヴィジュ、アーミル・カーン、ラージ・アルジュン
トレイラー
ストーリー
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グジャラート州ヴァドーダラー。保守的なムスリム家庭に育った少女インスィア(ザーイラー・ワースィム)は歌が大好きで、いつか歌手になることを夢見ている。そんなインスィアに母のナジマー(メーヘル・ヴィジュ)は優しかったが、厳格で権威的な父ファルーク(ラージ・アルジュン)は娘の音楽好きを快く思っていない。まして歌手になるなど決して許しそうもない。
インスィアはあるとき母がコンピューターを買ってくれたことから、ユーチューブに自分の歌をアップすることを思いつく。だが、父にバレるのを怖れたインスィアはニカーブを着て顔を隠し、名前も「シークレット・スーパースター」で曲をアップした。ビデオは一晩で大評判になる。そんななか、有名音楽監督のシャクティ・クマール(アーミル・カーン)からインスィアの歌をレコーディングしたいと連絡が届く。
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アーミル・カーン・プロダクションズの作品。【Dangal】(2016)でギーターの子供時代を演じたザイラー・ワースィムが主演。保守的な家庭出身の歌の上手い少女が身分を隠しながらユーチューブで自分の歌を発表し、「隠れたスーバースター」になるという話。共演に【Bajrangi Bhaijaan】(2015)で迷子の少女ムンニーの実の母役を演じたメーヘル・ヴィジュ。アーミル・カーンは特別出演。
2年ほど前にヒンディー映画で女性を主人公にしたものが急増した時期がありました。現在はその頃に比べると少し落ち着いた感はありますが、それでも【Badrinath Ki Dulhania】(2017)のような女性が自立を目指す作品や、【Bareilly Ki Barfi】(2017)のように自立とまでは行かなくてもなんとなく古い社会の束縛から逃れたい女性が登場する作品が作られています。
【Secret Superstar】は、ユーチューブに自分の歌をアップするという現代的なやり方で旧社会の束縛から逃れようとする少女を描く作品です。もちろん歌手になりたいという自分の夢を追いかけることも作品のテーマですが、本作にあっては(本作でも、かも)束縛からの解放と夢の実現は切り離すことのできません。
本作でそんな旧社会の束縛をほぼ一人で体現するのは主人公インスィアの保守的で権威的な父ファルーク。娘が音楽をやることなど問題外で、トレイラーにもあるギターの弦を切るシーンなどは狂気すら感じさせます(このときのインスィアの驚き、悲しみ、怒りの入り混じった表情は全編でも最高の演技だとは思いますが)。また、平気で妻に手を挙げる暴力夫です。
【Secret Superstar】が珍しいのは、こうした父親に対して娘が積極的に戦う姿勢を見せることです。もちろん正面から反抗するわけにはいかないものの、暴力を振るわれても文句を言わない母親に離婚を勧め、実際に離婚を画策します。また、歌手になりたいという自分の夢は、いつしか父親と戦うための手段になっています。【Secret Superstar】の主人公はまだ子供ですが、旧弊と戦う女性の映画でもあります。
歌手になるという夢については意外とあっさりと進んでいきます。ユーチューブに歌をあプすればすぐに大評判になり、大物プロデューサーに見いだされるなど、ちょっと出来すぎではないかと思うかもしれません。しかし、それでいいのでしょう。本作での「夢」は社会の旧弊と戦う動機であり、手段であり、そして旧弊と戦うことによって得られる果実なのですから。
作品のメッセージは単純ながら力強く、素直に感動できる作品です。
音楽
純粋に音楽的にはどれだけ優れているのかわかりませんが、ストーリーにあてはめた音楽として見ると、非常に心を打ちます。
「Sapne Re」
「Main Kaun Hoon」
自分の存在について悩むという意味での「私は誰?」と身分を隠した秘密の歌手で「私は誰?」というのが掛けられています。
「Meri Pyaari Ammi」
ザーイラー・ワースィム インスィア役
【Dangal】(2016)のときはまだ子役といった感じでしたが、本作ではもう立派な女優でした。名子役は必ずしも大人の俳優として成功するとは限りませんが、ザーイラーの場合にはとりあえず順調に移行期を進んでいる気がします。今後も期待。
メーヘル・ヴィジュ ナジマー役
【Bajrangi Bhaijaan】(2015)に続いて、またしても優しい母親の役。今後も母親女優として活躍するのか、それとも違った役にチャレンジするのか注目です。
アーミル・カーン シャクティ・クマール役
【Delhi Belly】(2011)での特別出演曲「I Hate You (Like I Love You)」での奇抜なアーミルがそのまま役になった感じでした。しかし、作中では奇抜な外見や物言いとは裏腹に、インスィアが両親を離婚させようとするのを手伝うため、自分の離婚裁判で敵だった弁護士に弁護を依頼したりと優しいところも見せます。
どちらも一流のプレイバック・シンガーであるモナーリー・タークルとシャーンが実名で登場します。
どういうわけか本作の舞台はカシミール地方だと勝手に思い込んでいましたが、本当はグジャラート州のヴァドーダラー(旧名バローダ)でした。勘違いの言い訳をすると、主人公インスィアを演じたザーイラー・ワースィムはカシミール出身で、【Dangal】(2016)のあと、地元の保守的イスラム教徒から批判を受けていたことが記憶にあったからでした。
ユーチューブでトップ歌手にというストーリー、インドではさほど非現実的とも言えません。本作のインスィアのようにまったくの素人がアップしたわけではありませんが、現在活躍中あるいは売り出し中のプレイバック・シンガーには、ジョーニター・ガーンディー(【Ae Dil Hai Mushkil】(2016)の「The Breakup Song」)やシャーリー・セーティヤー(【Gentleman】(2017)の「Disco Disco」)のように、ネットで有名になって映画にという人がいます。
【Secret Superstar】
【Dangal】を観た人、勇気ある少女の物語に感動したい人、チャラいアーミルを見たい人、おすすめです。