【Dangal】 |
出演:アーミル・カーン、ファーティマー・サナー・シャイフ、サークシー・タンワル、サーニヤー・マルホートラ、ザイラー・ワーシム
トレイラー
ストーリー
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マハヴィール(アーミル・カーン)はかつて将来を嘱望されたアマチュア・レスラーだったが、家庭の経済的事情からレスリングを諦めざるを得なくなり、その後の彼の夢は「自分の息子をレスリングのチャンピオンに育てること」になった。しかし、妻ダーヤー(サクシー・タンワル)との間には長女ギーター(ザイラー・ワーシム)、二女バビターと女の子ばかりが生まれ、3人目も女の子だったとき、マハヴィールはついに夢を諦めた。
ある日、娘のギーターとバビターが近所の男の子たちとケンカし、彼らをアザだらけにしたことを知ったマハヴィールは娘たちをレスリング選手にしても夢はかなうのではないかと思いつく。あらたな目標を得たマハヴィールは娘たちへの厳しいトレーニングを開始する。嫌がる娘たち、嘲笑する周囲の人々、女子選手を相手にしないレスリング関係者など、数々の困難にもめげず、マハヴィールは信念を貫こうとする。
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今年のクリスマス公開は【PK】(2014)以来2年ぶりとなるアーミル・カーン主演作。別にアーミルだけがクリスマス公開をしているわけではありませんが、過去の作品をみるとやはり圧倒的に「クリスマス公開のアーミル」です。というわけで、今年の【Dangal】も観る前からまず外さない「鉄板」な作品だろうと予想はできました。
今回、アーミルは主演のほか、プロデューサーの1人としても作品に加わっています。監督は【Chillar Party】(2011)、【Boothnaath Returns】(2014)を監督しているニテーシュ・ティワーリー。両作品とも評価はまずまずで、なかなか実力のある監督です。
アーミル以外の出演者で最も知られているのは妻ダーヤー役のサクシー・タンワル。映画では知られていませんが、テレビでは特に女性に人気の大物。また、アーミルの娘(大人)の役を演じるファーティマー・サナー・カーンは【Chachi 420】(1997)などに出演した元子役です。
【Dangal】はそのタイトル(「レスリング」の意)どおり、レスリングをテーマにしたスポーツ物であると同時に、コーチである父と選手である娘の関係を中心にした家族ドラマです。レスリングをテーマにした作品では今年すでにサルマーン・カーン主演【Sultan】(2016)が大ヒットになっています。女子スポーツをテーマにした作品としては、インド映画のスポーツ物に革命を起こしたといわれる【Chak De! India】(2007)、ボクシングの【Mary Kom】(2014)、【Saala Khadoos】(2016)(タミル版【Irudhi Suttru】『ファイナル・ラウンド』、東京国際映画祭で上映)が知られています。
冒頭の「実話に基づく」は本当で、主人公マハヴィール・シン・フォガート、娘のギーター、バビターいずれも実在で、国際大会のメダリストというのも実話です。
前半はどちらかというと家族ドラマの要素が強く出ています。序盤はアーミル演じるマハヴィールの半生を簡単になぞります。将来有望ながら家庭の事情で選手としての活動を諦めたマハヴィールは息子に夢を託そうとしますが生まれてくるのは女の子ばかり。別に娘がかわいくないわけではないけれど、夢を絶たれたマハヴィールは失意の底に。ところがある出来事をきっかけに娘を選手にしようと思い立ち、と非常にテンポ良くストーリーが展開します。回想シーンの若い頃から中年までを一気に演じるアーミルの肉体改造、マハヴィールの悩み、女子スポーツへの社会的偏見、娘たちのちょっとユーモラスなトレーニング風景(子役が上手)など内容的にも盛りだくさんで素晴らしい出来でした。
後半は、傑作である前半に比べると目新しさの点でやや劣ります。父と長女の葛藤など興味深い要素もあるにはありますが、試合のシーンが中心であり、それ自体は迫力あるものであるにもかかわらず、先に挙げた過去のスポーツ物からの内容的な差異を出し切れていない感じがしました。確かに今のインドのスポーツ界が抱える大問題として、官僚的な協会運営によって選出の活躍が阻害されている現状は描かないわけにはいけないのかもしれませんが、作品が類似したものになるという弊害は免れません。
時間的な制約もあるのかもしれませんが、後半はほぼ長女ギーターだけの描写になるのも物足りません。作品の途中では、長女ギーターはナショナル・チーム監督の「科学的」コーチングに信頼を移し、父の方法を古臭いものと考えるのに対して、次女バビターは父に信頼を置き続けるという面白い対立の構図が出来上がります。しかし、バビターの活躍はあまり描かれることなく、この話が発展することはありませんでした。
前半後半を通じてやはりアーミルの演技は完璧でした。肉体改造とは別に、特に感心したのは娘にレスリングをさせるときの姿。前半は自分の夢のために娘を特訓するというエゴ丸出しの男でしたが、後半ふと気が付くとそこにいるのは父親として、コーチとして娘の活躍を願うマハヴィールの姿でした。いつの間に、どのように変わったのか、これだけでももう一度作品を観直してみたくなりました。
公開前から話題になっていたアーミルの肉体改造。現役時代から50代までを演じるために体重を増減させました。百聞は一見に如かずで、トレイラーの3分過ぎからの10秒間に登場するのが同一人物であるとは思えません。ちなみに実際には映画内の時間とは逆で、太っているほうが先、痩せているほうが後です(撮影開始前に急激に体重を増やした)。
【Dangal】の面白さの1つは、「最もレスリングに縁がなさそうな女の子にレスリングをやらせる」なので、子供時代のギーター、バビター役をやる子役の活躍は欠かせません。とにかく彼女たちが上手。最初は嫌々特訓を受けているところから、最後は男の子たちをバンバン投げ飛ばすところまでを見事に演じています。
ストーリー的に後半少し弱いかなとは思いましたが、内容の濃さやテンポの良さ、感情表現など、総合力では圧倒的。作り手、演じ手の熱さが登場人物の熱さに昇華されて現れているのがわかる優れた作品です。
音楽
音楽はプリータム。
「Haanikaarak Bapu」
「haanikaarak」は「タバコは健康に有害です」というときの「有害」の意。「有害オヤジ」。
「Dhaakad」
「Gilehriyaan」
歌は今年ブレイクしたジョーニター・ガーンディー。
アーミル・カーン マハヴィール・シン・フォガート役
押しも押されぬヒット・メーカーのアーミル・カーンですが、【3 Idiots】(2009)、【Dhoom 3】(2013)、【PK】(2014)など最近は人間離れ(というか、本当に・・)した役が多く、今回のような人間臭い役はどうなのかと思いましたがまさに杞憂。熱く、泥臭い、それでいて優しい非常に人間味のある役でした。
ファーティマー・サナー・シャイフ ギーター役
プロモーションの段階で最初に見たのは試合のシーンで、「この美女だれ?」と思いましたが、【Chachi 420】(1997)に出ていたあの子役とは。そのほか、【Tahaan】(2008)では主人公タハーンの姉の役で出演しています。
サクシー・タンワル ダーヤー役
「Kahaani Ghar Ghar Ki」、「Bade Achhe Lagte Hain」という2本のテレビ・ドラマで、「最も人気のあるテレビ女優」になっているサクシー。アニル・カプール制作のインド版『24』のシリーズ2でも、女性視聴者を増やすことを見込んでわざわざサクシーを出演させたほど。映画での大役は初めてですが、さすがの貫禄でまったく問題なし。
ザイラー・ワーシム ギーター(子供)役
子供時代のギーターをやったザイラー。アーミルに負けず劣らず本作の演技賞ものです。運動はあまり得意ではないようですが、レスリング・シーンも頑張りました(メイキング・ビデオ参照)。
悪役のようになってしまっているインド女子レスリング代表監督役はギリーシュ・クルカルニ。マラーティー映画の俳優で、ナーナー・パーテルも出演した風刺映画【Deool】(2011)で国家映画賞の主演男優賞を獲っています。
メイキング
最近のクリスマス公開作品 ([ ]はアーミル以外)
【Taare Zameen Par】(2007) 監督・主演作
【Ghajini】(2008)
【3 Idiots】(2009)
[【Tees Maar Khan】(2010)]
[【Don 2】(2011)]
[【Dabangg 2】(2012)]
【Dhoom 3】(2013)
【PK】(2014)
[【Bajirao Mastani】【Dilwale】(2015)]
【Dangal】(2016)
【Dangal】
アーミル作品には逆らうなという人、【Chachi 420】または【Tahaan】を観た人、アーミルの体重増減を見習いたい人、おすすめです。