【Dear Zindagi】 |
出演:アーリヤー・バット、シャールク・カーン、アリー・ザファル、クナール・カプール、イラ・デュベー、アンガド・ベーディー、ヤシャスヴィニー・ダーヤマー
ティーザー
ストーリー
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カイラ(アーリヤー・バット)は新進のシネマトグラファー。いつか監督として自分の作品を撮りたいと思っているが、今は小さな仕事をこなす毎日。カイラは付き合っていたレストラン・オーナーのシド(アンガド・ベーディー)への気持ちが薄れ、映画プロデューサーのラグー(クナール・カプール)と浮気したりもするが、本当にラグーが好きなのかはわからずにいた。とにかくなにもかも、自分の気持ちすらわからず、カイラは悶々としていた。
あるとき、ムンバイで住んでいた家を追い出されたカイラは、気が進まないながらもゴアの実家で1カ月ほど過ごすことにする。悩み多きカイラは、ちょうどの機会だと知り合いに紹介されたゴアに住む著名な精神科医、「ジャグ」ことジャハンギール・カーン医師(シャールク・カーン)の診断とカウンセリングを受けることにする。
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【English Vinglish】(2012)(邦題『マダム・イン・ニューヨーク』)で華々しい監督デビューを飾ったガウリー・シンデー監督の2作目。前作は家族から認めてもらえない主婦がニューヨークでの英語学習体験を通じて本当の自分を見出し、自身を取り戻していくというストーリーでしたが、本作【Dear Zindagi】も主人公の年齢は違うもの基本的には同じテーマです。
主演は今のボリウッドのトップ女優では一番若いアーリヤー・バット。そして共演がシャールク・カーン。実年齢でアーリヤーとは28歳差。シンデー監督は配役が決まった当初から、アーリヤーとシャールクは恋人同士ではないことを明らかにしており、ファンは「それではどんな関係?」と想像をたくましくしました。その後、ティーザーが発表されても、はっきりとはわからないままでした。
いよいよ公開されてみると、シャールクは精神科医(セラピスト)でアーリヤーはその患者という関係でした。しかし、冒頭に「本作品は医学的見地から特定の療法を薦めるものでありません」という意味の警告がなされているように本格的な医学モノではなく、シャールクの役割もアドバイザーといった感じです。そして、結果としてはこの設定は当たりでした。二人の関係はとても自然。アーリヤーを中心から外すことなく、シャールクも良い感じの役割を果たせており、年齢差やスターとしての格の差といった障害を見事にクリアしていました。
作品の中心でもあり最大のみどころでもあるのは主人公カイラのキャラクターとそれを演じるアーリヤーの演技。「自分で自分がわからない」カイラですが、作品中ではその「自分がわからない」というキャラクターが明確に描かれています。明らかな心の病といった風ではなく、他人への発言やさりげない行動(カイラには整っているものを見ると乱してみたくなるというクセがあります)などからカイラの心を透かし見せます。
そして後半。ジャグの助けを借りて自分を見出していくカイラ。ここでのアーリヤーの演技は本当に素晴らしかったです。観客にはカイラの心が見えます。より正確に言うと、カイラが自分の心を見ているのが見えるかのよう。アーリヤーはこうした心の変化のプロセスをすべて表情だけで演じ分けていました。クライマックスには「本当に演技?」と思えるくらいでした。
シャールク・カーンは適度に控えめで良かったです。主演の重圧がないからだと思うのは偏見でしょうか。それでもプロフェッショナルな冷徹さと人間としての暖かみの両方を持ち、その場に応じて使い分ける精神科医ジャグの役はさすがにシャールクと思わせるところもありました。こうした助演としての出演はおそらく最近ではなかったはずで、もしかすると新境地ということになるかもしれません。
舞台となるゴアの風景や光、アミト・トリヴェーディーの音楽など映画としての道具立てもしっかりしています。「親愛なる人生」というタイトルにふさわしく、監督の感性と俳優の演技が見事にマッチした、とても繊細で、とても美しく、とても優しい作品です。
音楽
シンデー監督の前作【English Vinglish】でも音楽を担当したアミト・トリヴェーディーが音楽。【Queen】(2014)もそうですが、大作よりも比較的規模の小さい作品の音楽で抜群の素晴らしさを発揮します。
「Love You Zindagi」
タイトル・ソング。【Khoobsurat】(2014)「Preet」や【Shivaay】(2016)「Raatein」の独特の歌声を持つジャスリーン・ローヤルはまだ25歳の女性シンガー。
「Just Go To Hell Dil」
「Tu Hi Hai」
作品中ではアリー・ザファルが(本当に)歌っています。こちらはアリジート・シン・バージョン。
アーリヤー・バット カイラ役
アーリヤー、今年は【Kapoor & Sons】、【Udta Punjab】、そして本作とどれも素晴らしい演技で、巷では「ハットトリック」などと言われています。別の意味ですごかった【Udta Punjab】はとにかく、他の2作からすると、家族ドラマや青春ドラマなどの役は今後みなアーリヤーが持っていきそうな感じすらします。
ところで監督をめざすシネマトグラファーというカイラ設定は、ガウリー・シンデー監督の自伝的なところもあるのかもしれません。特に監督について多く知っているわけではありませんが、なんとなくアーリヤーと似ている気がします。
ガウリー・シンデー監督
シャールク・カーン ジャハンギール・「ジャグ」・カーン医師役
主演男優賞(初期には悪役賞)は数多く獲得しているシャールクですが、これまで助演男優賞の受賞はあるのでしょうか(教えて!ファンの人)?本作ではぜひとも狙ってほしいところです。十分にチャンスはあると思います。
カイラのカレシ?たち
(左上)【Pink】(2016)では悪役だったアンガド・ベーディー
(右上)【Rang De Basanti】(2006)など昔からイケメンとして知られているものの、なかなかあと一歩が伸びないクナール・カプール。
(左下)歌手で俳優のアリー・ザファルが歌手役。
(右下)サプライズ・・ですが、もう知られてしまったか。
カイラの親友たち
(左)イラ・デュベー。母は舞台女優で映画にも脇役で出演多数のリレッテ・デュベー。イラもソーナム・カプールの【Aisha】(2010)を見ると「主人公の友人」俳優として才能あり。
(右)ヤシャスヴィニー・ダーヤマー。俳優ラーマカント・ダーヤマーの娘で【Phobia】(2016)に出演しています。
カラン・ジョーハル監督【Ae Dil Hai Mushkil】(2016)ほど事前に話題にはなっていませんでしたが、本作も9月続くパキスタン人俳優排斥の被害者となりました。本作の後半にはパキスタン人俳優・歌手のアリー・ザファルが出演していますが、公開までひた隠しにされ、最終的にアルバム収録曲には別の歌手を立てるということになりました。
シンデー監督が「シャールクとアーリヤーは恋人同士の役ではない」と発言して以来、私もいろいろ想像してみました。私は、シャールクが正体不明の風来坊、アーリヤーが都会っ子。旅先で出会った2人のロード・ムービーで、【Chalo Dilli】(2011)のようなものを想像していました。親子の線を外したまではよかったのですが、見事にハズレ。
【Dear Zindagi】
アーリヤーの名演技を見てみたい人、リラックスしたシャールクを見たい人、ゴアで自転車に乗ってみたい人、おすすめです。