【Ae Dil Hai Mushkil】 |
監督:カラン・ジョーハル Karan Johar
出演:ランビール・カプール、アイシュワリヤー・ラーイ、アヌシュカー・シャルマー、ファワード・カーン、リサ・ヘイドン、イムラーン・アッバース、シャールク・カーン(特別出演)、アーリヤー・バット(特別出演)
トレイラー
ストーリー
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ロンドンでMBAをしているアヤーン(ランビール・カプール)は、ディスコで知り合ったアリゼー(アヌシュカー・シャルマー)と情熱的なキスを交わすが、そのあとでお互い恋人(リサ・ヘイドン、イムラーン・アッバース)がいることを打ち明ける。その後、お互いの恋人と別れた2人、アヤーンはアリゼーのことを好きになるが、アリゼーはアヤーンのことを友達としか思っていない。
そんなとき、アリゼーは街で偶然昔の恋人のアリー(ファワード・カーン)と出会う。アリーはアリゼーに復縁を迫り、戸惑うアリゼー。数日後、アリゼーはアヤーンの前から姿を消す。さらに数日後、アヤーンにインドのラクナウにいるアリゼーから電話がかかり、アリーとの結婚式にアヤーンを招待したいという。複雑な心境のままラクナウに向かったアヤーンは結局大きな失望を味わうことになる。
失意のアヤーンはヨーロッパに戻る途中の空港で詩人のサバー(アイシュワリヤー・ラーイ)と出会う。お互いに惹かれるものを感じた2人。3か月後、2人はウィーンで一緒に暮らし始めるが・・・
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ボリウッドの人気監督カラン・ジョーハルの新作です。監督作としては【Student Of the Year】(2012)=SOTY以来ですが、本作【Ae Dil Hai Mushkil】のような大人のラブストーリーとしては、【My Name Is Khan】(2008)=MNIKを飛び越えて、【Kabhi Alvida Naa Kehna】(2006)=KANK以来になります。
【Ae Dil Hai Mushkil】はNANKと同じく2組の男女によるラブストーリー。出演はランビール・カプールとアヌシュカー・シャルマーの【Bombay Velvet】(2015)の2人。これにアイシュワリヤー・ラーイ、パキスタン出身俳優で【Khooburat】(2014)、【Kapoor & Sons】(2016)に出演のファワード・カーン。
タイトルの「Ae Dil Hai Mushkil」は直訳すると「心は難しい」という意味で「複雑な心」といった意味になります。【C.I.D.】(1956)の有名曲「Yeh Hai Bombay Meri Jaan」の出だしの歌詞から取っています。
「Yeh Hai Bombay Meri Jaan」
脇役コメディ俳優のジョニー・ウォーカー
【Ae Dil Hai Mushkil】、舞台となるヨーロッパ(パリ、ウィーン)の風景、出演者のファッション(主に冬服)、軽いセックス・ジョーク、耳になじみやすいメロディの音楽、そして監督の人脈を生かした多才なゲストなど、洒落でスタイリッシュという意味でジョーハル監督らしい作品でした。
ストーリーは非常に裕福ながらも優柔不断、音楽をやりたいのになんとなくMBAをやっているアヤーンと明るくしっかりしたアリゼーの関係が軸になります。アヤーンはアリゼーのことを好きになりますが、アリゼーはアヤーンを気の合う友達としか思っていないというすれ違いの関係。これにアヤーンとサバー、アリゼーとアリーという関係が絡まってくるという展開です。
「友達カップルは成立するのか?」といったアヤーンとアリゼー、年上女性と年下男性の「恋愛のための恋愛」といったアヤーンとサバー、恋愛から結婚に発展したアリゼーとアリー。いずれも興味深い関係の設定ですが、いずれも面白いストーリーに昇華しきれませんでした。特にサバー、アリーの2人の扱いが雑で、それぞれの恋愛エピソードは結論を出すどころか尻切れトンボで終わっています。そして中心となるアヤーンとアリゼーの関係は結末と絡むので内容は伏せますが、ちょっと不満の残る決着でした。
ランビール、アヌシュカー、アイシュワリヤーのそれぞれが作りだすキャラクターはそれぞれいい点もありました。ランビールはお得意のちょっとつかみどころのない性格を出せていたし、アヌシュカーは完全に話の中心になっていました。アイシュワリヤーは外見の美しさ、妖艶さもさることながら、人間味という点で最近の役柄からは一歩抜け出た印象でした。しかし、こうした優れたキャラクターをストーリー上で上手く動かせていなかった気がします。そのへんが非常に残念な作品でした。
本作はややストーリーが弱く全体的には傑作というには遠い作品になってしまいましたが、監督らしいサービス精神で個々のパーツは充実しており、それだけでも十分に楽しめるとは思います。また、本作でカラン・ジョーハル監督にはやはりこのような、トップ俳優を揃えて現代恋愛事情を描くという作品を撮ってもらいたいのだと再確認しました(SOTYも悪くはないですが)。次作に期待しましょう。
音楽
音楽はプリータム。多彩な曲を自在に操るプリータムの良さが出ています。歌は現在のエース・シンガーといえるアリジート・シンが中心。
「Ae Dil Hai Mushkil」
「Bulleya」
【Rcokstar】(2011)でもそうでしたが、ランビール・カプールはウソ楽器プラス口パクが非常に上手いです。
「The Breakup Song」
歌はアリジート・シンと(このビデオには出てきませんが)ユーチューブ経由でブレイクしたジョーニター・ガーンディー。
「Channa Mereya」
ランビール・カプール アヤーン役
つかみどころのない役が上手いランビールがつかみどころのない役をやってたため、ほんとうにつかみどころがなくなってしまった感じです。「複雑な心」というタイトルにはふさわしいかもしれませんが印象が散漫でした。【Rockstar】(2011)、【Barfi!】(2012)、【Yeh Jawaani Hai Deewani】(2013)などヒット作でのランビールは、つかみどころがない中にも一本筋が通ったところがありました。こちらも次に期待しましょう。
アヌシュカー・シャルマー アリゼー役
明るい性格ながら、実は過去の恋愛で心に傷を持つ役。それがさらに昔の恋人アリーが現れ復縁を迫られ、さらにアリーとの結婚式で自分に対するアヤーンの気持ちを知る。ジェット・コースターのような心境の変化ですが、アヌシュカーは巧みに演じていました。それだけにあんなエンディングにせずに最後まで描ききってほしかったところです。
アイシュワリヤー・ラーイ サバー役
「誰かが必要なわけじゃない。求められたいの」なって言うアイシュ、ドキッとしてしまいます。結婚以前にまでさかのぼってもないような役柄で新境地だと思います。結婚、出産からの復帰後は【Jazbaa】(2015)、【Sarbjit】(2016)で見せた母、妻としての役も悪くはありませんが、本作のようなアイシュをみな見たかったのではないかと思います。それだけにアヤーンとの関係にもきっちりとした結末をつけてほしかったです。
ファワード・カーン アリー役
後述するように、本作への出演が別の意味でいろいろ話題になってしまいましたが、いざふたを開けてみると、特にファワードでなくてもいいような役でした。パキスタン出身の俳優であるファワードがインド映画で成功したのは外見よりもその演技力だと考えています。それを発揮させないとはもったいない使い方でした。
シャールク・カーンの特別出演はいかにもジョーハル監督というファン・サービスでした。もう1人のパキスタン俳優であるイムラーン・アッバース、リサ・ヘイドンも特別出演。
本作のプロモーション期間中、パキスタン拠点の武装組織によるカシミールのインド陸軍基地襲撃とそれに対するインド軍の報復攻撃で、インドとパキスタンの関係が極度に悪化しました。そして右翼政党などがパキスタン出身俳優をインド映画に出演させるべきでないという主張を強めました(以前から主張はありました)。そのような中、インド映画制作者協会は自主的にパキスタン出身の俳優や技術者を使わないことを決めました。ただし、その際には本作のようなすでに完成していたり、制作中の作品は除外するとされました。しかし、本作およびジョーハル監督に対する右翼政党の攻撃は続き、結局その中の1つ、マハーラーシュトラ州のマハーラーシュトナヴニルマン・セーナーと、同監督が今後パキスタン俳優を起用しないこと声明を出すこと、および兵士福祉基金に寄付することで公開を認める合意をしました。これには映画界内外から、ジョーハル監督は圧力に屈したという批判がありました。
【Ae Dil Hai Mushkil】
妖艶なアイシュワリヤーを見たい人、オチは残念でも気にならないという人、一目だけでもシャールクをという人、おすすめです。