【Waiting】 |
監督:アヌ・メーノーン Anu Menon
出演:カルキ・ケクラン、ナスィールッディーン・シャー、ラジャト・カプール、アルジュン・マトゥール、スハスニー・マニラトナム
トレイラー
ストーリー
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ターラー(カルキ・ケクラン)は新婚の夫ラジャト(アルジュン・マトゥール)が出張先で交通事故に遭ったとの知らせを受け、急きょケーララ州コチに向かう。病院に到着したターラーは、ラジャトが意識不明の重体で、意識が戻るかどうかわからないことを知る。夫の会社のはからいで当面は病院近くのホテルで暮らすことになったターラーだが、いつまでともわからない「待つ」生活に戸惑う。
ターラーは病院の待合室でシヴ・クマール(ナスィールッディーン・シャー)と出会う。シヴはやはり意識が戻らない妻(スハスニー・マニラトナム)を見舞ってすでに8か月になる「待つ」ことのベテラン。ターラーはシヴから「待つ」ためのさまざまな心構えを教わる。大切な人の意識が戻らないという同じ境遇に置かれた二人。次第に心を通わせ始める。
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ベテランの名俳優ナスィールッディーン・シャーと、【Margarita with a Straw】(2014)などで優れた演技を見せているカルキ・ケクランの共演。2人はアヌラーグ・カシュヤプ監督作【That Girl in Yellow Boots】(2011)で共演しています。
監督のアヌ・メーノーンは【London Paris New York】(2012)(出演:アリー・ザファル、アディティ・ラーオ・ハイダリー)でデビューし、本作が長編2作目です。
医療をテーマにし、医者や患者を主人公にした作品は数多くあると思いますが、本作は少し視点を変え、昏睡状態の患者の意識が戻るのを待つ家族の話です。大切な人が亡くなってしまうのもつらいですが、昏睡状態の場合には意識が戻るかもしれないという(ときにはかすかな)期待もあり、もう戻らないのではないかという不安もある特別な心理状態です。さらに本作の主人公2人は、患者に対してある医療行為をするかどうかの決断を迫られます。
【Wainting】には、医療や生命といったテーマのほかに、偶然出会った同じ境遇の2人の心の交流というテーマがあります。初老の男性シヴと現代の若者の典型のような女性ターラー。昏睡状態の患者を抱えるという共通点がなかったら絶対に出会うこともなかった2人が悩みを話し合い、ときには本気で衝突する関係になります。そして最後にはお互いの決断に影響を与えます。
シヴとターラーの会話が素敵です。夫の事故で誰からも見離された不安にかられたターラーはシヴに「私はツイッターでは何千人ものフォロワーがいるのに今はたった1人のような気がする」と話すと、しばらくの沈黙のあとシヴは「ツイッターってなに?」。2人は爆笑します。シヴはごく普通の初老の男性、ターラーは口癖のように「ファック」や「シット」を連発する女性。それでも2人の会話が成立していくところに本作の面白さがあります。
ナスィールッディーン・シャーとカルキ・ケクランの主人公を演じる2人も文句ありません。出会いそうもない2人が出会ったときの間合いのようなものは想像が難しいですが、それでもなんとなく納得できてしまうような自然な演技です。
主な話は病院の中で進行するためあまり多くは出てきませんが、舞台はヒンディー語映画(英語も多いですが)では珍しいケーララ州のコチ。医療や生命の問題を扱う作品ながら、南国の美しい光にあふれる風景が印象的です。
作品には生命の問題を深刻に問いかけたり、ましてその答えを出そうなどという気負いはありません。しかし、主人公の2人は個人として決断をし、物語を完結させています。よくまとまったドラマを達者な俳優で観る。そんな楽しみが感じられた作品でした。
音楽
音楽はインド生まれのニュージーランド人ミュージシャンのマイキー・マクレアリー。古いヒンディー映画の名曲を現代風にアレンジするプロジェクトのほか、カルキ主演作【Margarita with a Straw】の音楽も担当しています。
「Tu Hai Toh Main Hoon」
「Zara Zara」
カルキ・ケクラン ターラー役
はるかに年齢が上のナスィールッディーンが相手なので目立ちませんが、本作での役は新婚とはいえ既婚者で大人の女性の部分も出ています。しかし、思いがけない出来ごとに直面して見せる子供っぽさも。そんな2つの面を揺れ動くターラーを演じるカルキを観ていると、最近演技が充実してきたと思います。そういえば、カルキの演技がインド映画の他の女優とは異なる何かを持っていると感じたのは、ナスィールッディーン・シャーとの前の共演作【That Girl in Yellow Boots】(2011)のときでした。
ナスィールッディーン・シャー シヴ役
ジェネレーション・ギャップを感じながらも、同じ境遇のターラーの話し相手になるシヴ。たしかに年齢が上で、病院で「待つ」ことでも先輩であるためターラーにいろいろとアドバイスをしますが、実は迷える点においてはターラー以上かもしれないという役です。悪役やクセの強い役も上手いですが、【Finding Fanny】(2014)のフェルナンドもそうですが、若い子と掛け合いのできる優しい役のナスィールッディーンはとてもいいです。
このほか、2人の患者を受け持つ医師役にラジャト・カプール、ターラーの夫役に小規模作品に多数出演のアルジュン・マトゥール、シヴの妻役にスハスニー・マニラトナム。マニラトナム監督夫人です。
ケーララ州コチでロケしたヒンディー映画はかなり珍しいです。ファルハーン・アクタル主演のスリラー【Karthik Calling Karthik】(2010) で主人公があることから逃げなければならなくなり、まるで世界の果てにでも行くような感じでやってきたのがコチというのがありました。
カルキとナスィールッディーンが以前に共演したのは、当時はまだカルキの実生活でのパートナーだったアヌラーグ・カシュヤプ監督の【That Girl In Yellow Boots】(2011)。カルキは父をさがしてムンバイで風俗嬢をやる外国人女性の役で、ナスィールッディーンはその客という組み合わせ。
【That Girl In Yellow Boots】(2011) トレイラー
「ポポッポーのお気楽インド映画」
【That Girl In Yellow Boots】(2011)
http://popoppoo.exblog.jp/16524749/
【Wainting】
年齢もなにもかも違う2人の交流を見たい人、家族や生命などの問題について考えてみたい人、おすすめです。