2016年 04月 15日
【Kapoor & Sons (since 1921)】 |
監督:シャクン・バトラ Shakun Batra
出演:アーリヤー・バット、シッダールト・マルホートラ、ファワード・カーン、リシ・カプール、ラトナー・パータク、ラジャト・カプール
トレイラー
ストーリー
*********************************************
ともに海外で働くカプール家の兄弟2人、作家として成功しているラーフル(ファワード・カーン)と同じく作家を目指すも芽が出ずバーテンダーとして働くアルジュン(シッダールト・マルホートラ)。かつてのある出来事から疎遠になっていた2人だが、祖父(リシ・カプール)が心臓発作で倒れたとの知らせに急遽、実家のクーヌールへと戻る。
祖父は一命をとりとめたものの、久々に戻った実家「カプール家」は多くの問題を抱えていた。兄弟の父ハルシュ(ラジャト・カプール)は妻スニターが事業を始めようとするのに反対し気まずくなっていた。さらにハルシュの昔の女性関係までが浮上し、夫婦は破たん寸前。
アルジュンは地元の旧友に誘われたパーティでティア(アーリヤー・バット)と出会う。アルジュンは明るく元気なティアに惹かれ、やがて二人の仲は深まっていく。だが、ティアは別の件でアルジュンと出会っていた。
祖父の誕生日、カプール家のみんなは自宅でパーティーを行う。大勢の人が訪れ、飲んで歌って楽しみ、パーティーは大成功と思われたが・・・
**********************************************
インド映画で「家族」がテーマの作品が減っている気がします。あいかわらず他国の映画に比べたら多いのかもしれませんが、それでもかつてはインド映画の絶対的な価値基準であった家族ももはや絶対とはいえない程度には減っています。そうした中、敢えて家族の絆をど真ん中に据えて作られたのが【Kapoor & Sons (since 1921)】です。
監督はリテーシュ・バトラ。前作の監督デビュー作【Ek Main Aur Ekk Tu】(2012)はカリーナー・カプールとイムラーン・カーンという女性が年上のカップルを共演させ、なかなかのヒットでした(個人的にはそれほどとは思いませんでしたが)。
出演は作中の「カプール家」の第1世代に本当にカプール家のリシ・カプール。第2世代がこちらも本物カプールのラジャト・カプール(リシと血縁はないようですが)、その妻役にラトナー・パータク。第3世代に【Khoobsurat】(2014)でプリンス役を好演のパキスタン人俳優ファワード・カーン、それからシッダールト・マルホートラ。兄弟と知り合いになる主役級ではただ一人カプール家以外の女性役にアーリヤー・バット。
【Kapoor & Sons】は家族がテーマ、家族の再会と再生の物語です。古典的なテーマながら、バトラ監督、少しも古臭さを感じさせない上手い作りでした。タミルナードゥ州のヒル・ステーション(高原の別荘地)であるクーヌールを舞台にしたことが効果的。風景の美しさはもちろんですが、田舎風の生活や自宅でのガーデン・パーティなどが作品にノスタルジックな雰囲気を与え、古いテーマでも「古臭く」ないものに変えています。
カプール家の人々の会話は、たとえケンカのときでなくても、かなりきわどいツッコミや皮肉、それへの反撃に満ちています。これがどことなくカプール家を昔ながらの「家族」とは違ったものに見せています。それでも、「一番大事なことはなかなか言い出せない」という昔ながらのモチーフは残されています。
バトラ監督、ストーリー展開でも古典的な「家族の再生」の物語をひねってきました。前半の最後にあたる祖父の誕生日パーティ。ふつうならこれは大団円として使われるような素材ですが、本作では後半に向けての爆弾にすぎません。また当然予想されるティアをめぐっての兄弟の争い。これもふつうなら最後なんとか解決して兄弟の和解となりますが、本作では確かに解決するものの、その解決自体が結構な爆弾。このほかにもいろいろな爆弾が爆発し、監督は「家族の再生」にシニカルなのかと思わせるほど。ただ、このシニカルさとエンディングに向かっての「家族の再生」のバランスが絶妙です。
下手をすると平凡になってしまう「家族の再生」物語を、まったく平凡ではない家族(とそのメンバー)と非凡なストーリーで描いてみせた【Kapoor & Sons】。予定調和的であるようなそうでないような感覚にもしかすると観る人の好みが分かれるかもしれません。私としては古典的題材を大きく揺さぶって、かつバランスを失わないバトラ監督のセンスを評価したいと思います。
音楽
「Buddhu Sa Mann」
「Bolna」
「Let’s Nacho」
リシ・カプール 祖父アマルジート・カプール役
まずは見た目がすさまじい。最初はリシ・カプールだとわからないほど。死にかけての入院なのに看護婦をからかったり、エロ動画をみられるようにタブレットの操作を覚えたがったりと元気な爺さんでした。それでもカプール家への想いの強さが伝わってくるいい役。
ファワード・カーン 長男ラーフル・カプール役
【Khuda Ke Liye】(2007) から見ている人にはそうでもないかもしれませんが、【Khoobsurat】(2014)のプリンス役で知った人には今回の役はだいぶ違う印象を与えたと思います。こちらが普段に近い感じなので、やはり上手いんですね。パキスタンの俳優でここまでボリウッド・メインストリームに来ているのは伊達ではありません。あと母役のラトナー・パータクとは【Khoobsurat】に続き2作連続で母子。
シッダールト・マルホートラ 次男アルジュン・カプール役
キャラクターの表現が一面的になってしまう感じがしていましたが、本作では元来の人の良さと、いろいろな事情での屈折したところを併せ持ったアルジュン役を上手くこなしていました。
アーリヤー・バット ティア役
主要人物ではただ1人のカプール家以外。なかなか立ち位置というか距離感が難しかったと思いますが、自分で「I’n Funny」と言ってしまうような役で存在感を保っていました。作中はすごく重要な役というわけではありませんが、器用さを発揮してまた評価を高めそうです。
タイトルの「Kapoor & Sons (since 1921)」、ちょっと変わっていますが、「苗字(&) Sons」はイギリス系の家族経営の店、会社の称号として一般的なものです。
祖父が若い頃何度も観に通いつめたという映画は【Ram Teri Ganga Maili】(1985)。リシ・カプールの父ラージ・カプールの最後の監督作。マンダーキニーのあのシーン見たさに若者が映画館に通ったという話はほかでも聞きますので、リシ・カプール自身ではないでしょうが、半分は実話です。
【Ram Teri Ganga Maili】(1985)
「Tujhe Bulaayen Yeh Meri Baahen」 歌:ラター・マンゲーシュカル
祖父のためにマンダーキニーのカットアウト(等身大[またはそれより大きな]映画宣伝用の人物立て看板のこと)をプレゼントします。
【Kapoor & Sons (since 1921)】
古くて新しい家族の物語を観たい人、リシ・カプールの「カプール爺さん」を見たい人、ファワード・カーンのファンの人、おすすめです。
by madanaibolly
| 2016-04-15 16:59
| レビュー