【Airlift】 |
監督:ラージャー・クリシュナ・メーノーン Raja Krishna Menon
出演:アクシャイ・クマール、ニムラト・カウル、プーラブ・コーホリー、フェリーナ・ワズィール
トレイラー
ストーリー
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1990年。クウェートで会社を経営するランジート(アクシャイ・クマール)の生活は順調そのものだった。事業はクウェートの王族との大型契約直前まで進み、家庭では妻アムリター(ニムラト・カウル)、娘シムーと平和な暮らしが続いていた。だが、その年の8月、イラク軍がクウェートに侵攻し、ランジートの生活は一変する。
ランジートはかつてバグダードで知り合ったイラク軍大佐のコネで家族とともにクウェートを出国することを許される。だが、ランジートは自分の会社で働いているインド人従業員とその家族を見捨てることはできなかった。自分たちだけでの出国を取りやめ、従業員の出国を手伝うことにする。やがて、ランジートはクウェート在住インド人のリーダーとして、彼ら全員の出国を目指すようになる。
ランジートはバグダードに乗り込みイラク政府と交渉し、インド人の出国許可を得る。だが、国連の制裁で海路は使えず、彼らに残された唯一の道はヨルダンへの出国だった。しかし、それには多数のインド人を引き連れ、イラク領内を1,000キロ以上を進まなけれならない。さらにヨルダンからの出国はどうするのか。17万人にのぼるクウェート在住インド人による、史上最大の脱出作戦が始まった。
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1990年のイラク軍クウェート侵攻を舞台に、同国在住インド人の脱出作戦を描いた作品です。インドと中東の結びつきは強く、本作のようにクウェートにも会社経営者から出稼ぎ労働者まで多数のインド人在住者がいました。彼らがクウェートを脱出するのを助けた実在の人物が本作の主人公です。
主演はアクシャイ・クマール。共演は【The Lunchbox】(2013)(『めぐり逢わせのお弁当』)のニムラト・カウル。監督のラージャ・クリシュナ・メーノーンは広告業界からの転身で、前作【Barah Anna】(2009)はナスィールッディーン・シャーとヴィジャイ・ラーズが出演したコメディで比較的高い評価を受けました。
ストーリーはアクシャイ演じる主人公がさまざまな困難にも負けずクウェート在住インド人を無事に脱出させるという話で、話の大筋はわかっているのですが、それでも十分に見応えがありました。
まずはイラク軍侵攻時のクウェートの再現が巧みでした。実際のロケはアラブ首長国連邦だったようですが、イラク軍に破壊された街の様子には悲惨さが表れており、主人公がイラク軍に支配された街を車で走り抜ける(そしてときどき検問に遭う)シーンには緊迫感が漂います。事実かどうかは知りませんが、イラク軍兵士の傍若無人ぶりも話を面白くしています。
それ以上に、主人公がたちが遭遇する困難にはリアリティがあり、さすがに実話に基づいているだけのことはありました。イラク政府から出国することを許されたものの、国連の制裁が発動されて乗れる船がなくなってしまうとか、出国に必要なパスポートを業者に預けてしまって持っていない出稼ぎ労働者がたくさんいるとか、彼らに仮のパスポートを発行してもらえるようインドの外務省にかけあうとか、最後に空路で救出はずが、エア・インディアのパイロットが危険地域に飛行したくないとごねだすとか、実話でなければ思いつかないような話が次々に出てきます。
クウェート在住インド人の中にもいろいろな人がいました。なかでもジョージという名の中年男性。避難キャンプにいてもトイレが汚いとか部屋割りが気に入らないとか常に文句を言い、敢えてリーダー役を引き受けているランジートを非難します。インド人に限らず、どこにでもこういう人っているよなあと妙な現実味を感じました。
アクシャイ・クマール演じる主人公のランジートは決してスーパーマンではなく、ごくふつうのビジネスマンが勇気を出したという感じで好感が持てます。なにせ相手はイラク政府の高官、イラク軍の将校、インド政府の役人なので、下手に出るべきところは下手に出られる現実的なヒーローでした。
映画としてのまとまりを考えると仕方ないかもしれませんが、難を言うと、あまりにインド人だけの話に終始している感がありました。他の外国人はほとんど出てきません(欧米人はさっさと逃げ出したということでしょうか)。ランジートが自分の会社の従業員のために始めた活動が次第に大きくなって避難所の500人程度を率いるようになるところまではわかりましたが、それがどうして17万人の脱出の功労者になるのか、そのへんもややあいまいでした(インド政府に掛け合ったからか?)。
【Airlift】。英雄的、愛国的なところを少し強く出しているため、そのへんが気になる人はいるかもしれませんが、全編を通じて緩みのない展開で、次はどうなるかと目が離せないスリラーであり、危機の際の人間模様を描いた優れたドラマでもありました。
音楽
「Soch Na Sake」
「Dil Cheez Tujhe Dedi」
「Tu Bhoola」
アクシャイ・クマール ランジート役
アクシャイの最近の役で多いのは、【Holiday】(2014)の軍人、【Baby】(2015)のテロ対策員、【Gabbar Is Back】(2015)の世直しに挑む義賊など社会正義を体現するヒーローで、これらがすべてヒットしています。【Airlift】は一般人ながら正義を背負って奮闘する役で、やはりこの流れです。これからしばらくはこうした役が続くかもしれません。
ニムラト・カウル アムリター役
【The Lunchbox】(2013)(『めぐり逢わせのお弁当』)では地味な主婦の役でしたが、本作では社長夫人でゴージャスなところも出しています。しかし、派手なだけではなく、夫をかばって言いがかりを付けてきた相手を叱りつける気の強いところもあります。
プーラブ・コーホリー イブラヒーム役
ランジートの補佐役を務めますが、自分はクウェート人の女性と一緒に国外に出ようとし、これがのちに問題になります。プーラブ・コーホリーは【Rock On!】(2008)での好演で注目されましたが、その後はあまり活躍できていません。いい俳優だと思うのですが、どうしてでしょうか。
わがままな苦情男ジョージはプラカーシュ・ベラワディという俳優。俳優だけでなく、ジャーナリスト、映画監督でもあるそうです。イブラヒームが連れ出そうとするクウェート人女性にフェリーナ・ワズィール。
外国居住民の国外脱出がテーマなので、イランからの米国人救出を描いたベン・アフレック主演の【Argo】(2012)との類似が指摘されましたが、監督は否定しています。
【Airlift】
イラク軍のクウェート侵攻をまだ覚えている人、『お弁当』とは違ったニムラト・カウルが見たい人、安心・安定ヒーローのアクシャイを見たい人、窮地に強いインド人を見たい人、おすすめです。