2016年 01月 20日
【Wazir】 |
監督:ヴィジョーイ・ナンビヤール Bejoy Nambiar
出演:アミターブ・バッチャン、ファルハーン・アクタル、アディティ・ラーオ・ハイダリー、ニール・ニティン・ムケーシュ、ジョン・エイブラハム(特別出演)
トレイラー
ストーリー
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テロ対策班に所属する警察官のダーニシュ(ファルハーン・アクタル)は、妻のルハーナー(アディティ・ラーオ・ハイダリー)、娘のヌーリーと幸せに暮らしていた。だが、あるときダーニシュは、娘を車に乗せたまま偶然に目的したテロ犯を追跡したことから、娘を死なせてしまう。突然の娘の死でダーニシュとルハーナーの夫婦関係にも隙間ができてしまう。
絶望から娘の墓の前で自ら命を絶とうするダーニシュ。だが、ちょうと照らされた車のサーチライトで自殺を思いとどまる。車の主は車いすの元チェス名人パンディット・オンカルナート・ダール(アミターブ・バッチャン)だった。ダーニシュはパンディットが開く子供向けのチェス教室に顔をだすようになり、次第に二人は親しくなる。
パンディットもやはり娘のニナを亡くしていた。カシミール出身の大臣ヤザード・クレーシー(マーナヴ・カウル)の娘のところに遊びにいったとき、階段から転落死したのだった。事件は事故として片づけられたが、パンディットは事故とは考えていなかった。興味を持ったダーニシュはかつての事件を調べ始める。やがてダーニシュは恐ろしい真実に突き当たる。
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【3 Idiots】(2009)、【PK】(2014)など、ラージクマール・ヒラーニー監督作品のプロデューサーとして知られるヴィドゥー・ヴィノード・チョープラーと、そのヒラーニー監督の両人がプロデュースするスリラー作品。監督は【Shaitan】(2011)、【David】(2013)など独特の映像美を備えた作品を作るビジョーイ・ナンビヤール。
アミターブ・バッチャンが車いすの元チェス名人、ファルハーン・アクタルがテロ対策班の隊員役。ほかにアディティ・ラーオ・ハイダリー、ニール・ニティン・ムケーシュ。
1950~60年代にはラージ・コースラー監督らによってノワール作品などが作られたことはありましたが、元々スリラー小説が発達していないことなどもあり、ヒンディー映画にとってスリラー映画は長らく苦手なジャンルでした。しかし、近年はスジョーイ・ゴーシュ監督の【Kahaani】(2012)、ディバーカル・バナルジー監督の【Detective Byomkesh Bakshy!】(2015)など優れた監督がスリラー作品を作るようになり、だいぶ質が上がってきました。本作【Wazir】もそれらの作品に並ぶ優れたスリラーです。もっとも、制作陣や出演者を考えるとある程度当然と言えます。
上記の優れたスリラー作品に共通するのは、プロットやトリックといったスリラーそのものに関わる部分だけではなく、登場人物によるドラマ性や作品の雰囲気といったところにも注意が払われていることです。【Wazir】もすごい仕掛けがあるストーリーだけではなく、アミターブ演じる車いすの元チェス名人とファルハーン演じる特殊部隊員との交流という一見すると変わった人間関係のドラマがあり、ビジョーイ・ナンビヤール監督独特の少し超現実的な映像美が作りだす雰囲気も備えています。
スリラーなのでプロットに立ち入るのは控えますが、アミターブが元チェス名人ということが重要になります。パンディットによる詩「khel khel mein」(ゲームをする中で)は「ゲームをする中で、ゲームをがわかるようになる」というもの。これも作品のカギになります。作品全体を貫く大掛かりなトリックがありますが、それは途中で予想が付く人もいるかもしれません。しかし、わかっても楽しめることに変わりはないという作りになっています。
【Wazir】のもう一つの柱はカシミール。同じくカシミールを舞台にした【Haider】(2014)もそうですが、ヒンディー映画ではカシミールは美しさと悲劇性を同時に表す記号になっていると言っていいでしょう。【Wazir】におけるカシミールは、アミターブの役がカシミールに多いダール(Dhar)という姓のパンディット(カシミーリー・パンディット)であるだけでなく、大臣クレーシーがカシミールで起きたある事件の生き残り(これも重要)という点でつながってきます。そして最後にはダーニシュは事件の決着を付けるため、カシミールに向かいます。
俳優陣はいずれも申し分ありませんでした。娘の死が執念となったアミターブのパンディット、同じく娘の死を悔恨として抱くダーニシュの二人の演技は特に優れていました。また、ダーニシュの妻役のアディティ・ラーオ・ハイダリーはこれまでの彼女のベスト。ニール・ニティン・ムケーシュは存分に個性を発揮した役で良し。
非常に良くできた質の高いスリラー作品。トリックに騙されてみるのも良し、トリックを見抜いて優越感に浸るのも良し、いずれにしても楽しめる作品です。
音楽
「Tere Bin」
「Tu Mere Paas」
「Maula」
アミターブ・バッチャン パンディット・ダール役
車いすの元チェス名人で、娘の死の真相を解き明かすことに執念を燃やすパンディット役はまさにアミターブのハマり役。クセの強い老人役は本当に上手いです。ただし、チェス・プレイヤーということでなかなか本心を読ませない役でもあります。
ファルハーン・アクタル ダーニシュ役
娘の死を悔やみ、ずっと思いつめた表情のダーニシュ。立場はまるで異なりますが、青春の悩みを抱え続ける【Zindagi Na Milegi Dobara】(2011)のイムラーン役とつながるところがあると思いました。強烈な個性を持つ人物を演じた【Bhaag Milkha Bhaag】(2013)とは異なりますが、本作の演技も素晴らしく、俳優ファルハーンの良さが出ています。
アディティ・ラーオ・ハイダリー ダーニシュの妻ルハーナー役
美人でスタイルよく、バラタナーティヤムのダンサーなので踊りも上手いアディティですが、やや童顔なのためか、これまでこれといった役に恵まれませんでした。本作は主役の二人に比べると登場時間も短い役ですが、娘を死なせた夫を許せない気持ちと許したい気持ちの間で揺れる妻を良く演じており、キャリア最高の演技だと思います。
ニール・ニティン・ムケーシュ ワズィール役
そもそも何の役なのかも作品の核心に触れるので伏せますが、最近の好調ぶりがよくわかる好演でした。
ジョン・エイブラハムがダーニシュの特殊部隊隊長役で特別出演。
【Wazir】の最大のトリックは、推理小説的な見方をするとルール違反ではないかという人がいるかもしれません。もしかするとそのため本作を受け入れらないという人もいるかと思います。個人的には小説ではなく映画なので、それも有りかと思います。何のことかはご自分で観て確かめてください。
【Wazir】
アミターブとファルハーンの渋い共演が見たい人、優れたスリラー作品が見たい人、アディティの美しさを堪能したい人、おすすめです。
by madanaibolly
| 2016-01-20 18:46
| レビュー