【Bajirao Mastani】 |
監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー Sanjay Leela Bhansari
出演:ランヴィール・シン、ディーピカー・パードゥコーン、プリヤンカー・チョープラー、タンヴィー・アーズミー
トレイラー
ストーリー
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18世紀インド。バージーラーオ(ランヴィール・シン)は1720年、弱冠20歳でマラーター王国のペーシュワー(宰相)に任命された。「インド全土を配下にする」と公言するバージーラーオは自ら軍を率いて各地に出征する。
あるときバージーラーオは出征先でブンデルカンド王国の王の娘マスターニー(ディーピカー・パードゥコーン)と出会う。マスターニーはムガル帝国軍に包囲されて苦境に立たされているブンデルカンド城を救うため、バージーラーオに援軍を求めに来たのだった。バージラーオは援軍に駆けつけ、ブンデルカンドを解放する。ブンデルカンド城に滞在するバージーラーオとマスターニーは恋に落ちる。やがてマラーター王国とブンデルカンド王国の同盟が決まり、マスターニーはバージラーオに嫁入りすることになる。
だが、マスターニーを快く思わないバージラーオの母ラーダーバーイー(タンヴィー・アーズミー)、第一夫人のカーシーバーイー(プリヤンカー・チョープラー)、弟のチムナージー・アッパー(ヴァイラヴ・タドヴァンディー)。そしてマスターニーがムスリムであることから敵視するブラーマン(バラモン)の勢力。マスターニーは苦境に耐え、やがてバージーラーオの子シャムシェール・バハドゥールを産む。だが、二人には無情な運命が待ち構えていた。
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サンジャイ・リーラー・バンサーリー監督の新作。時間の感覚を超越した感じのあるバンサーリー監督作品で歴史物もたくさん作っていそうですが、実は歴史物は本作【Bajirao Mastani】が初めて(【Devdas】(2002)が時代設定が最も古いですがこれはフィクション)。インド西部からインド中央部に大きな勢力を拡大したマラーター王国のペーシュワー(宰相)バージーラーオ1世とマスターニーとの悲恋物語で、マラーティー語の小説に基づいているとされています。
出演はバージーラーオにランヴィール・シン、マスターニーにディーピカー・パードゥコーン。バンサーリー監督の前作【Goliyon Ki Raasleela Ram-leela】(2013)から2作続けて同じ組み合わせです。そして第一夫人カーシーバーイー役にプリヤンカー・チョープラー。トップ女優2人に夫人役をやらせて話がまとまるの?と心配してしまうくらいの豪華キャストです。
作品の題材となったバージーラーオ1世(1700-1740、ペーシュワー在位1720-1740)はインド史の重要人物です。一方のマスターニーについては事実はあまり知られていないようです。そのため、バンサーリー監督(および原作小説の作者)は十分に想像力を働かせることが可能になりました。その結果、【Bajirao Mastani】は歴史大作であり、豪華絢爛なアート作品であり、バージーラーオとマスターニーの愛の物語のいずれでもある作品になっています。
ストーリーはバージラーオがマラーター王国の勢力を拡大していく歴史的・政治的な背景を持ちながらも、マスターニーが嫁ぎ先で苦労する「嫁姑話」であり、「嫁いびり話」です。もっとも、姑のラーダーバーイーがバージーラーオとマスターニーを会わせないように、「マスターニーを王の御前で踊らせにやってしまいなさい」と言うようなスケールの大きな嫁姑話です。また、小姑ではなく第一夫人が相手になります。
バージーラーオがヒンドゥー、マスターニーがムスリムであることから、【Bajirao Mastani】は異教徒間の恋愛物語でもあります。バージーラーオの母や弟がいい顔をしないばかりでなく、王国と密接に結びついていたブラーマン(バラモン)層との対立は2人の運命を左右することになります。
そして、最後にはバンサーリー監督が好むテーマである「主人公の身を滅ぼすまでの強い愛」が浮かび出ます。終盤のバージーラーオ、あるいはバージーラーオとマスターニーの2人には、【Devdas】や【Ram-leela】が重なります。さらに、映像の美しさを追求するバンサーリー監督の特徴が良く表れているダンスシーンは格別です。
本作のバージーラーオは武人であり愛人でもあり難しい役柄だと思いますが、ランヴィール・シンは好演。ディーピカーは強い女性マスターニー像を出せていました。また、さりげなくこなしていましたが、剣での戦いのシーンなどは他にこれだけできる人はいないのではないかと思います。特に光ったのは第一夫人カーシーバーイー役のプリヤンカー。第一夫人を小さな役にして逃げることをせず、あえてプリヤンカーを持ってきたバンサーリー監督の意図が当たりました。
歴史物でバンサーリー色がいつもより薄い気もしますが、よく見るとやはりどこまでもバンサーリー作品。歴史ロマンスの大作として楽しめました。
音楽
バンサーリー監督自身が音楽も手掛けます。
「Deewana Mastani」
歴史映画の傑作【Mughal-E-Azam】(1960)の名曲「Pyar Kiya To Darna Kya」をイメージして作られたダンス・シーン。
【Mughal-E-Azam】(1960)(カラー版)
「Pyar Kiya To Darna Kya」
https://www.youtube.com/watch?v=TdOS-0sIW-Y
「Malhari」
「Albela Sajan」
「Pinga」
ランヴィール・シン バージーラーオ役
戦争で負けたことのない天才軍人のバージーラーオとマスターニーとの悲恋に苦しむバージーラーオの両方を演じる難しい役をこなしたていました。南インド映画に比べてヒンディー映画で歴史(歴史フィクションを含む)ヒーロー作品が少ないのは、それを演じられる俳優が少ないからだと思っていますが、ランヴィールはその中で貴重だと思います。
ディーピカー・パードゥコーン マスターニー役
【Piku】(2015)で好演し、もはや万能女優になっているのに今さらですが、ディーピカーには本格的なアクションをやってほしいと思っていました。本作での戦闘シーンや殺陣のシーンはやはり決まっていました。マスターニーという内に強さを秘めた女性としての役も十分。ただ、マスターニー自身が嫁ぎ先で不自由な立場におり、心情を言葉に出せるシーンが少なかった分、通常シーンの目立ち方では、たとえばプリヤンカーと比べて不利だった気がします。そのかわりアクション・シーンとダンス・シーンは素晴らしいです。
プリヤンカー・チョープラー カーシーバーイー役
マスターニーに理解がありすぎても、なさすぎてもダメな微妙な役を好演していました。米テレビ・ドラマ『Quantico』に出演するなどの活躍がありながら、国内では【Dil Dhadakne Do】(2015)が当たらなかったりと目立ちませんでしたが、本作ではさすがの実力を発揮です。
このほか、バージ―ラーオの母ラーダーバーイー役はタンヴィー・アーズミーが怪演。権力、能力ともにないマラーター王役にマヘーシュ・マンジュレーカル。バージラーオを敵視する大臣にアディティヤ・パンチョーリー。バージーラーオの忠臣にミリンド・ソーマン。
バージ―ラーはマラーター王国のペーシュワー(宰相)。マラーター王国ができた当初は大臣の中で最高位というふつうの意味での宰相でしたが、バージラーオの父バーラージー・ヴィシュヴァナートの頃から事実上の最高権力者の称号になります。さらにバーラージーから息子のバージーラーオにペーシュワー職が引き継がれたことによって世襲制になります。もっとも、あくまで宰相ですから名目上の王は存在しており、作中ではマヘーシュ・マンジュレーカル演じるチャトラパティ(マラーター王の称号)が登場します。
マスターニーについてははっきりとした史実はほとんど伝わっていません。本作ではブンデルカンドの王とペルシャ出身の側室の間の娘になっていますが、中にはニザーム(本作では虎のおっさんの一族)の娘だとか、宮廷の踊り子だという話もあるそうです。
【Bajirao Mastani】は公開前、バージラーオの描写が史実と異なるとして論争が起きました。バージラーオの子孫が公開をやめるように申し入れ、公開中止を求める裁判も起きました。さらに、公開日にはバージラーオの地元プネーでは抗議で上映中止になりました。さまざまな抗議内容がありますが、中には「『Pinga』のように、カーシーバーイーとマスターニーが一緒に踊ったという歴史的証拠はない」というのもあり、こうなると完全に難癖です。
また、作品中ではブラーマン(バラモン)がマスターニーに対して「不寛容」な集団として描かれています。原作者はマスターニーの息子がシャムシェールというムスリム名を持っていたことから想像(創造)したエピソードでしょうが、今のインドではここからも文句が出なければいいと心配します。
『水戸黄門』、『暴れん坊将軍』の国の出身者としては、このくらいのフィクションはいいじゃないかと思うのですが(ちなみに暴れん坊将軍の徳川吉宗 (1684-1751)とバージーラーオ1世は同時代人で、将軍、宰相在位はほぼ重なります)。
【Bajirao Mastani】
歴史大作が好きな人、豪華絢爛なダンスシーンを楽しみたい人、ディーピカーのアクションその他が見たい人、真面目演技で熱演のチンさんが見たい人、おすすめです。