【Prem Ratan Dhan Payo】 |
監督:スーラジ・バルジャーティヤ Sooraj Barjatya
出演:サルマーン・カーン、ソーナム・カプール、ニール・ニティン・ムケーシュ、アヌパム・ケール、スワラー・バーシュカル、ディーパク・ドーブリヤル
トレイラー
ストーリー
**************************************************
アヨーディヤーに住む劇団員のプレーム(サルマーン・カーン)は、数年前洪水救援キャンプに奉仕活動で来ていたところを見かけた王女マイティーリー(ソーナム・カプール)に憧れていた。もちろんプレームにとっては高根の花だが、なんとかもう一度会いたいと願っている。そんなマイティーリーが近くの街プリータムプルに来ることになった。そこに住む婚約者の王子ヴィジャイ・シン(サルマーン・カーン)に会うためだった。プレームは王女に会うため友人のカンハルヤ(ディーパク・ドーブリヤル)とともにプリータムプルに向かう。
プリータムプルは長年のあいだ王家の不和が続いていた。ヴィジャイ・シンの異母弟アジャイ・シン(ニール・ニティン・ムケーシュ)、異母妹のチャンドリカ(スワラー・バースカル)は王を快く思っておらず、特にアジャイ・シンはチラグ・シン(アマン・コーリー)と組んで王を亡きものにしようと画策していた。ある日、ヴィジャイ・シンは義弟の計略によって意識不明の重体に陥ってしまう。
ヴィジャイ・シンの意識が戻らぬまま王女の訪問の日が迫り、王に忠実な大臣(アヌパム・ケール)らは途方に暮れる。そんなとき、プリータムプルにやってきたプレームの顔を見た大臣たちは、プレームを王の替え玉にしたてる計略を思い付く。
**************************************************
サルマーン・カーンの新作です。監督はサルマーンの出世作といえる【Maine Pyar Kiya】(1989)、サルマーン主演で90年代ボリウッド最大のヒット作【Hum Aapke Hain Kaun!】(1994)など、サルマーンとのコンビでヒット作を作ったスーラジ・バルジャーティヤ監督。バルジャーティヤ監督作でのサルマーンの役名はすべて「プレーム」に決まっていました。ただ、サルマーンとバルジャーティヤ監督の組み合わせは【Hum Saath-Saath Hai】(1999)が最後で、【Prem Ratan Dhan Payo】は16年ぶりの新作になります。本作のトレイラーに「Prem is Back」(プレムが帰ってきた)とあるのはそういうわけです。
ヒロインはソーナム・カプール。初共演かと思ってしまいましたが、よく考えるとソーナムのデビュー作【Saawariya】(2007)で共演していました(ランビールではなく、サルマーンが恋人役)。
タイトルは少しわかりづらいですが「愛という宝石の富を見出した」という意。これはインド中世の女性神秘詩人ミーラーバーイのバージャン「Ram Ratan Dhan Paayo」(ラーマという宝石の富を見出した)のもじり。サルマーンの役名プレームが愛という意味を持つ言葉遊びでもありますが、愛とという宝石を見出すのは本作の重要なテーマでもあります。
「Ram Ratan Dhan Paayo」
歌:ラタン・マンゲーシュカル
https://www.youtube.com/watch?v=eVzyOEhTBy8
作りが典型的なインド映画なのでまったく思い付きませんでしたが、原作は19世紀末のイギリス人作家アンソニー・ホープの冒険小説『ゼンダ城の虜(The Prisnor of Zenda)』が原作とされています(制作側が認めたかどうかは不明)。原作はヨーロッパの架空の王国を舞台にしていますが、【Prem Ratan Dhan Payo】はそれを北インド(アヨーディヤーから50キロほど)の藩王国プリータムプルに移しています。王族の兄弟たちの不和に、たまたま現れた王とうり二つの青年が王の替え玉として城に住み、王女と恋をしたり、悪玉と戦ったりします。架空の国の娯楽たっぷりの冒険譚は舞台がどこであってもいいのだと思います。
作品の作りはまるで過去のインド映画からの現在のインド映画への挑戦状かのごとく、意図的に古めかしい作りになっています。家族愛を中心に据え、大げさで時にはご都合主義ともいえる展開、見るからに悪役という悪役、そ豪華絢爛なダンスシーンや劇中劇。そうなると結末も容易に想像がつきますが、ここでは伏せておきます。
全体の古めかしさのほかに、サルマーンとバルジャーティヤ監督の過去作品、特に大ヒット作【Hum Aapke Hain Kaun..!】のモチーフが多く取り入れられています。作中でかなり長い時間が使われるサッカー(ごっこ)のシーンも同作品から。ただい、旧作ではサッカーではなくクリケットで、本作では「Kings」チーム対「Queens」チームの対戦でしたが、オリジナルは「Boys」対「Girls」。審判は犬が務めていました。また、素知らぬ顔でお尻をポンと叩くシーンもそうです。
バルジャーティヤ監督によるこの作りは、リアリティ重視、簡潔で効率的な作り方に向かいがちな今のインド映画だけがインド映画なのか、批評的な基準を満たすことと娯楽作として出来が相反した場合にどちらを選択するかという問いかけがあるように感じました。その答えは本作を観た観客の反応で明らかになるはずです。
サルマーン・カーンは、一時期のマッチョを捨てて大当たりした【Bajrangi Bhaijaan】(2015)でのキャラクターと重なるところのある善良な青年役。ソーナムは進んだ考えを持つ王女役なので、わりと等身大の役で好演。もちろん踊りはマードゥリー・ディークシトにはかないませんが、ヒロインとしては十分以上でした。
古典的な作りの作品ではあるものの、脇役に若い世代の実力俳優を配置したことで作品が安定したものになっています。ディーパク・ドーブリヤルとスワラー・バースカルの【Tanu Weds Manu】(2011)の2人がそろって登場。最近は悪役で活躍しているニール・ニティン・ムケーシュもひねくれた義弟役でいい感じでした。
現代の作品とは違った文法で作られているため拒否反応が出る人もいるかもしれません。しかし、古典的なインド映画の要素が凝縮された作品でインド映画の人気や魅力の秘密を知る手がかりとして観ても面白いと思います。
音楽
音楽はヒメーシュ・レーシャーミヤー。鼻にかかった歌声で知られる歌手でもありますが、今回は自分では歌いません。作品の古典的な作風に合わせたメロディアスな曲が多く、非常に耳に残ります。音楽シーンは色彩の渦のよう。華やかなダンスシーンが楽しめます。
「Prem Leela」
伝統的なラーム・リーラで出演者は全員男。シータ役は誰かわかりますか?
「Prem Ratan Dhan Payo」
豪華な宮殿ダンス・ソング。耳から離れないやみつきソングでもあります。「パヨレ、パヨレ~」
「Jalte Diye」
サルマーン・カーン プレーム/ヴィジャイ・シン役
サルマーンがバルジャーティヤ監督の【Maine Pyar Kiya】(1989)、【Hum Aapke Hain Kaun!】(1994) に出演したころは今のような筋肉はなく、むしろ細身の青年でした。筋肉は今でもありますが、【Bajrangi Bhaijaan】、【Prem Ratan Dhan Payo】ではあえて筋肉を封印して、素朴で純情な昔のサルマーンに戻っています。俳優として非常に上手い方向転換です。
ソーナム・カプール マイティーリー王女役
なかなか大きな当たりが出なかったソーナムですが、ようやくいい役がめぐってきました。【Raanjhanaa】(2013)のように優れた演技という感じでないとか、踊りはマードゥリーに全くかなわない(これは仕方なし)とか、あくまで昔風のヒロインで物語の核となる部分については受動的な役割しか果たしていないとかいろいろありますが、とにかく美しいのは間違いなし。あれだけの衣装を着こなして終始画面上で輝いていられるのはソーナムならではです。
ニール・ニティン・ムケーシュ アジャイ・シン王子役
デビュー作が【Johnny Gaddaar】(2007)(裏切者ジョニー)で最初からクセのある俳優でしたが、それでも【New York】(2009)での純朴な青年などもやっていました。【7 Khoon Maaf】(2011)、【Players】(2012)ごろから本領を発揮し始め、いまではタミル映画【Kaththi】(2014)にまで出演するようになりました。本作での位置づけは悪の大ボスではなく、昔のインド映画にはよくあったグレた弟の典型的な役でした。
スワラー・バースカル 王女チャンドリカー役
義兄の王と仲が悪く、始終不機嫌な王女チャンドリカー役。【Tanu Weds Manu】(2011)でカンガナーの友人役で注目され、その後【Raanjhanaa】(2013)、【Tanu Weds Manu Returns】(2015)などアーナンド・L・ラーイ監督作には欠かせない脇役女優になっています。
ディーパク・ドープリヤル プレームの友人カンハイヤー役
「役者タイプ」の脇役俳優。人の好い友人役から殺人鬼までなんでもやります。本作で作中でいろいろ変身するので注目。最初はいきなり冒頭のラーマ劇です。
アヌパム・ケールはターバン姿の大臣役。サンジャイ・ミシュラは劇団長で最初と最後に出てきます。
【Prem Ratan Dhan Payo】は王家の話ということもあり作中には城や宮殿が多く出てきます。こういうのをCGなどではなくほとんどロケで撮れてしまうのがインドのすごいところ。まだあまり特定できていませんが、ヴィジャイ・シンの城はラジャスタン州のジョードプルとウダイプルの中間あたりにあるKumbhalgarh城だということです(作中ではアヨーディヤーから数10キロという設定)。
Kumbhalgar Fort
味方によって古臭いとも懐かしいとも見えてしまう作品。気負わずにサルマーン祭りだと思って豪華な衣装やベタな家族愛などを楽しむのがいいでしょう。
【Prem Ratan Dhan Payo】
サルマーン祭りならばという人、【Hum Aapke Hain Kaun!】を見たことある人、ソーナムが王女役なら絶対だと思う人、おすすめです。