【Mary Kom】 |
監督:オムング・クマール Omung Kumar
出演:プリヤンカー・チョープラー、ダルシャン・クマール、スニール・ターパー
トレイラー
ストーリー
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インド北東部マニプル州。マリー(プリヤンカー・チョープラー)のボクシングへの情熱は、頑固な父親に反対されても少しも衰えることはなかった。そしてその情熱は優秀なコーチであるナルジート・シン(スニール・ターパー)との出会いで花開く。
数多くの大会で優勝したマリーはやがて恋人のオンレル(ダルシャン・クマール)と結婚、そして出産。ボクシングからは遠ざかった。だが、ボクシングへの想いは捨てがたく、ついに復帰を決意する。夫のオンレルは協力的だったが、マリーが結婚のためにボクシングを「捨てた」と思い込み、再びコーチとなることを拒否するナルジート。自らの利権しか考えないボクシング協会の役員との対立など、マリーの前には大きな困難が立ちはだかっていた。
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ロンドン五輪銅メダルの女子ボクシング選手マリー・コムの半生を描く作品。プリヤンカー・チョープラーが【Barfi!】(2012)での自閉症役に続き、またしても難役に挑戦です。
マリー・コムはさすがに日本ではさほど知られていませんが、インドのスポーツ界では有名選手。マニプル州インパール生まれで、世界選手権を5回も制しています。そして現在31歳でなお現役。アジア大会から次のリオ五輪を目指すとしています。
そんなスーパーウーマンの役を演じるプリヤンカーは、かなりの肉体改造をしてきました。さすがに体型が変わるまでというわけにはいきませんが、肩や腹などはかなり絞って筋肉をつけてきました。また、体だけでなく、ボクシングの動きもしっかりしていました(でも、一番ボクサーらしかったのは試合前後のパフォーマンス)。また、ボコボコに殴られる場面も多いのですが、顔の傷は付け放題に付けた感じでした。
ストーリーは周囲に反対されながらもボクシングを始めて選手として成長し、頂点を極めたあと結婚、出産で中断、その後復活して再度栄光をつかむという、まるで映画のようなスポ根もの。実際に映画?確かに。でも実話ですから。
本ブログではしばしば言ってきたように、インド映画では「スポーツ映画」というジャンルが本格化してきたのは最近のことで、まだ発展途上といったところです。その中で【Mary Kom】は試合のシーンはやや物足りないところはありましたが、スポーツ映画としてはまずまずでした。少なくとも、対戦相手が審判とグルだったり、凶器を隠し持っていたりのような、スポーツ映画を成り立たせなくするような設定はありません。せいぜい、対戦相手が意地悪そうな顔のドイツ女というだけでした。これはセーフです。
ボクシングの場面はまずまずでも、【Mary Kom】はその他の部分がそれを補ってあまりあります。少女時代の父親との葛藤、恋愛から結婚、出産。コーチとの師弟関係、協会の役員との対立など、どれも目新しいエピソードではありませんが、きっちりと配置した形で全体としてはあきさせないドラマに仕上がっています。
エンディングはドラマティックですが、話を少し作り過ぎかなという感想を持ちました。
音楽
「Ziddi Dil」
「Sukoon Mila」
「Salaam India」
プリヤンカー・チョープラー マリー・コム役
結果的には非常に似合った役になりました。昔のプリヤンカーならスポーツ映画の主演なんて想像もつきませんでしたが、【Don 2】(2011)あたりからアクションもできてもおかしくないと思えるようになりました。ところで、作品に関するニュースで、プリヤンカーを北東インド出身(つまり人種的にはモンゴロイド)のマリーに似せるため、目のあたりに特殊メイクをするという話がありました。なにかすごいメイクをするのではと怖れていたのですが、実際はさほどでもなく一安心。
ダルシャン・クマール 夫のオンレル役
女性が主人公の作品が増えるにつれ、彼女たちの恋人や夫を演じる男優の重要性が増してきたように思います。どのように演じるべきかの公式ができておらずなかなか大変ではないかと思いますが、今回のダルシャン・クマールは好演だったと思います。作中ではマニプル州出身の役ですが、実際は自称で「典型的なデリー出身のジャート」なんだそうです。ダルシャン、次は【NH10】でアヌシュカー・シャルマーと共演の予定。
スニール・ターパー コーチのナルジート役
ネパール人俳優で、ネパール映画とヒンディー映画の両方に出演しています。ネパール出身は女優では古くはマーラー・シンハー、比較的最近ではマニーシャー・コイララがいますが、男優は知りません。
【Mary Kom】は主人公のマリーがマニプル州出身ということで、同州を舞台としています。実際のロケ地はヒマーチャル・プラデーシュ州など、プリヤンカー以下みなヒンディー語を話しているということはあるにしても、インド北東地域が舞台となる珍しい作品です。アッサム州、シッキム州までがヒンディー映画の限界線で、【Dil Se】(1998)などが舞台(ロケはヒマーチャル・プラデーシュ州など)、俳優ではダニー・デンゾンパ、アディル・フセインなどが出ています。シッキム州は【Jewel Thief】(1967)、【Yaariyan】(2014)がロケを行っています。
【Jewel Thief】(1967)(シッキム・ロケ)
「Dil Pukare Aa Re Aa Re」
政治的に不安定なマニプル州は映画ロケどころか、ヒンディー映画は上映されておらず、【Mary Kom】の上映もかないませんでした。
【Mary Kom】には1人の日本人が関与しています。シネママトグラファーの中原圭子さん。アメリカを拠点に活躍しており、インド映画ではニール・ニティン・ムケーシュ主演のホラー【3G】(2012)でもシネマトグラファーを務めています。
実在のしかも存命で、さらには現役の人物を描いた作品ですが、だからといって話しが平凡でつまらないなどということはありません。女優プリヤンカーの目指しているものが見えるような作品です。
【Mary Kom】
ボコボコにされた顔のプリヤンカーが見たい人、女性が主人公の作品が好きな人、北東インドが舞台の作品を観てみたい人、お勧めです。