【Bhaag Milkha Bhaag】 |
監督:ラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラ Rakeysh Omprakash Mehra 出演:ファルハーン・アクタル、ソーナム・カプール、ディヴィヤー・ダッタ
トレイラー
ストーリー
*************************************************
1956年、ローマ・オリンピック。男子400メートル。インドの大きな期待を背負って出場したミルカー・シン。好スタートを切ったものの、途中で失速して敗退する。ミルカー・シンは途中で振り返るというありえないミスを犯したのだ。何が彼を振り返らせたのか?
オリンピックのしばらく後、インドとパキスタンは両国友好を目的とした陸上競技大会を開催することになった。インドの代表は当然ミルカー・シンになるはずだった。だが、ミルカーはパキスタン行きを拒否する。
ジャワーハルラール・ネルー(ダリープ・ターヒル)からミルカー説得の任を受けた官僚は、ミルカーのコーチであるグルデーヴ・シン(パーワン・マルホートラー)やインド陸上コーチのランヴィール・シン(ヨーグラージ・シン)を連れてチャンディーガルに向かう。列車の中でグルデーヴは、今回のパキスタン行き拒否の背景になっているミルカーの壮絶な半生を語り始める。
*************************************************
【Rang De Basanti】(2006)、【Delhi-6】(2009)のラケーシュ・オームプラカーシュ・メーラが監督が、インドの実在の陸上選手ミルカー・シンを描く伝記ドラマ。【Dil Chahta Hai】(2001)や【Don】シリーズなどで監督をしながら、【Rock On!】(2008)、【Zindagi Na Milege Dobara】(2011)で俳優として出演と二束のわらじのファルハーン・アクタルがミルカー・シンを演じています。
ミルカー・シンは50年代後半から60年代初めにかけて200~400メートル走で活躍した選手で、愛称は「フライング・シク」。主な国際大会では、作品にもあるように、オリンピックは1956年メルボルン大会、1960年ローマ大会に出場。アジア大会では1958年東京で200、400で2冠、続く1962年のジャカルタ大会を200メートルで連覇を達成します。おそらく現在まで含めてもインド最高の陸上選手の1人です。ちなみに、妻はバレーボール・インド代表選手のニルマル・カウル、息子はプロゴルファーのジーヴ・ミルカー・シンです。
ミルカー・シン
【Bhaag Milkha Bhaag】では、このような陸上選手としての活躍も語られますが、むしろ物語の中心となるのは、あまり知られていない、その生い立ちから陸上選手になるまでの話です。ミルカーは1935年、現在のパキスタンに生まれますが、1947年にインドとパキスタンが分離独立すると、パキスタンにおけるヒンドゥー教徒やシク教徒への迫害が強まり、ミルカーらはインドに移住します。デリーの難民キャンプ暮らし、短期の刑務所入りのあと、軍隊に入隊し、そこで陸上競技に出会うことになります。
【Bhaag Milkha Bhaag】は、このようなミルカーの半生を語るのに非常に構成が巧みです。
時間順に直線的に語るのではく、時間を行きつ戻りつしながら、少しずつ語られていき、一番の核心部分は最後になるまで明かされません。(ネタバレはしませんが)その核心とは、ミルカーがローマ・オリンピックで敗れる原因になり、また、パキスタン行きを拒否する理由となるものです。観客は最後まで観て、パズルのピースが嵌まるように全体の関係が見えるようになっています。
主人公の人生を生い立ちに遡って記述するところといい、スポ根、政治モノ、ラブストーリーの要素をすべて押し込んだ作りといい、インド映画の大作らしい作品でした。少ないですが踊りもあります。そして堂々の3時間超え。見ごたえ十分です。
ファルハーンの演技が物凄い。陸上選手の役を演じるために、肉体を改造してきました。以前もボリウッド俳優としてそこそこの筋肉はあったものの、今回は「ちょっとやり過ぎでは?」と思うくらい。
【Zindagi Na Milegi Doabara】のファルハーン
今回のファルハーン
さらに、筋肉だけでなく、走法やシク教徒としてヒゲなどの風貌に到るまで、徹底した役作りです。
ソーナム・カプールの登場時間が短いのがちょっと不満でしょうか。若いころのエピソードの中での登場なので仕方ないところですが、作品からの消え方があまりに切なかったです。
1958年東京アジア大会のシーンは残念ながら日本ロケではなく、インドで撮影したものをCGなどで処理したものです。ただし、タレントの武井壮が出演してミルカーと一緒に走っているし、インタビュアーも日本人で日本語です。
音楽
音楽はシャンカル=エシャーン=ローイ。
「Zinda」
「Mera Yaar」 映像が美しい曲
ファルハーン・アクタル ミルカー・シン役
とりあえず、国家映画賞の主演男優賞最有力でしょう。そのくらい気合が入っていました。【Bhaag Milkha Bhaag】、ファルハーンの演技がなければ成り立たなかった作品です。
ソーナム・カプール 若きミルカーの想い人ビーロー役
上にも書きましたが、登場時間が短いうえに、消え方も突然。ファン的にはちょっとがっかりかもしれません。ただ、出てきたシーンでの美しさは間違いなし。監督は【Delhi-6】でもソーナムを非常に美しく、魅力的な役で撮っていて、使い方を心得ているのだと思います。そういえば、【Delhi 6】のときも、「ソーナムの登場時間が短すぎ、もっと見たかった」といった意見が多数。もしかして今回も監督の作戦か?
ディヴィヤー・ダッター ミルカーの姉役
弟想いの姉を演じています。ボリウッドの脇役女優としてはトップクラス。メーラ監督の前作【Delhi 6】では不可触民の掃除婦を演じてすごく良かったです。監督に信頼されての連続出演でしょう。今回はシリアスな役ですが、この人はコメディもいける万能女優。
プラカーシュ・ラージ ミルカーの上官役
南インド映画からボリウッドにも出演するようになり、【Singham】(2011)、【Dabangg 2】(2012)などで個性的な悪役を演じています。今回は一見意地悪そうに見えますが、実はいい人の上官役。
このほか、ダリープ・ターヒルがインド初代首相ジャワハルラール・ネルー役。この作品は実在の人物が多いですが、一番の大物。
ミルカーの200、400mで2冠を達成した1958年のアジア大会には、【Paan Singh Tomar】(2012)で映画化されたパーン・シン・トーマル選手が男子3000m障害で出場していました。奇しくも同時期に活躍した陸上選手2人が映画されています。
【Paan Singh Tomar】
インド映画の大作らしい作品で、ものすごい力作です。ボリウッド・メインストリームの名作として歴史に残ることになるでしょう。絶対に観て損はありません。
【Bhaag Milkha Bhaag】
ファルハーンの徹底した役作りを見たい人、ミルカー・シンの壮絶な半生を追体験したい人、(ちょっとだけど)美しいソーナムを見たい人、本格的インド映画の大作を観たい人、お勧めです。