【Gangs of Wasseypur 1】 |
(観たのは6月の公開時ですが、その後旅行などでレビューは書けずにいました。パート2の公開に合わせて、当時の書きかけやメモなどをもとに完成させました。)
監督:アヌラーグ・カシュヤプ Anurag Kashyap 出演:マーノージュ・バージパーイー、ナワーズッディーン・シッディーキ、リーマ・セーン、リチャ・チャッダー、ピユーシュ・ミシュラー
トレイラー
ストーリー
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ワーセープル。ビハール州との州境近くにあるベンガル州の炭鉱町。イギリス植民地の終わり頃、近くの村に住むシャーヒド・カーン(ジャイディープ・アフラワト)は、イギリス人の貨物を積んだ列車を襲ったことで有名になった山賊の首領になりすまし、自らも強盗を始めるようになる。だが、そのことで村にいられなくなり、近くの街の炭鉱で働くようになる。インドの独立とともに炭鉱は街の有力者ラマディール・シン(ティグマンシュ・ドゥーリア)の手に渡り、労働者の間で頭角を現したシャーヒドは、ラマディール・シンの手下として働くようになる。だが、ラマディール・シンは、シャーヒドが炭鉱を乗っ取ろうとしていることを知り、シャーヒドを暗殺する。
シャーヒドのいとこファルハンは、シャーヒドの子サルダール・カーン(マノージュ・バージパーイー)を引き取り、将来の復讐を誓わせながら育てる。やがて、サルダールはワーセープルで恐れられるギャングの頭目に成長、その間にラマディール・シンは炭鉱を手に入れ、地元の有力政治家になっていた。サルダールは父の暗殺の経緯を知り、ラマディール・シンへの復讐を誓って頭を剃る。
サルダールはナグマ(リチャ・チャッダー)と結婚するが、妊娠中の妻をよそに売春宿に通うようになる。ナグマは最初は激怒したが、やがてしぶしぶ夫の娼家通いを認めるようになる。サルダールはあるとき、ワーセープルの町でヒンドゥー教徒のドゥルガー(リーマ・セーン)と出会い、愛人にする。
70年にわたる大河ドラマの前半。
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【Devdas】の超現代的リメイク【Dev D】(2009)で知られるアヌラーグ・カシュヤプ監督は、今のボリウッドで最も優れたストーリーテラーと言えるでしょう。そのカシュヤプ監督がとてつもないスケールの大河ドラマを作ってきました。インドの炭鉱町を舞台にした3代にわたる復讐劇。しかし、単なるギャングの抗争物語ではなく、主人公たちに関わりを持つ女性たちや、本来は復讐とは無関係な新世代、ワセープルの街の住人など、さまざまな人間像が描かれる大規模かつ複雑な作品です。カンヌ映画祭では全編5時間を一挙上映したらしいですが、さすがに一般向けの公開では前後半に分けての公開です。今回はその前編。
正直なところ、作品の人間関係、利害関係を把握するだけでなかなか大変です。登場人物が多いうえ、時間の流れも早く、あっというまに10年くらい飛んだりします。これから観る人は、前もって家系図などで予習しておいたほうがいいかもしれません。
最初はとっつきにくいところがありますが、観ていくうちに、この多彩な登場人物や複雑な人間関係こそが、この作品の魅力であることがわかってきます。マサーラー・ムーヴィーとういうのとは違いますが、【Gangs of Wasseypur】には、過剰なほどのバイオレンス、あるときには不思議なほど純粋で、あるときには濃厚な恋愛(愛欲)、そして、ときおり現れる笑いと、さまざまな要素の混在します。そうしたものをすべて併せ呑み流れていく大河。そんなことを感じさせる作品です。
前半の主役はマノージュ・バージパーイー演じるサルダール・カーンで、作品の複雑さ、混沌を体現した人物です。ポスターにあるように、敵を平然と殺害するいっぽうで、将来愛人となるドゥルガー(リーマ・セーン)には、傍からみるとおかしくなるような恋心(欲望もたっぷりですが)を抱いたりします。なんとも複雑怪奇な人物ですが、なんとなく憎めない人物でもあります。【Gangs of Wasseypur】時代背景やら人物関係やら、難しいことを考えずに観る場合、このサルダール・カーンだけ眺めていればいいでしょう。
ギャングの抗争を描いた作品で女性は影が薄いと思いきや、サルダールの妻ナグマ、愛人ドゥルガー、息子の恋人モーフスィーナーなど、したたかな登場人物ばかり。こうした女性たちが【Gangs of Wasseypur】に「女たちの物語」の側面を付け加えています。
物語の舞台ワーセープルは実在の街。脚本を担当したうちの1人、ゼイシャン・クアドリはワーセープルの出身。
【Gangs of Wasseypur】は普通のクライム・ムービーの枠には収まらない膨大な内容を含んだ作品。本気で観たい人や1度観ただけでは消化しきれなかった人、パート2に向けて準備したい人は英語版ウィキペディアの解説がいいでしょう。かなり詳しいです。
Wikipedia「Gangs of Wasseypur – Part 1」
http://en.wikipedia.org/wiki/Gangs_of_Wasseypur_-_Part_1
音楽
音楽はスネーハー・カンワルカルとピユーシュ・ミシュラー。内容の過激さとは対照をなす、「センスのいいユルさ」。全曲にわたり、かなりレベルが高いです。スネーハーはMTVの番組「Sound Trippin」にも出演している若き女性音楽監督。ピユーシュ・ミシュラーはファルハン役で出演しています。
「Hunter」
「Bihar Ke Lala」
マノージュ・バージパーイー ワーセープルのドン、サルダール・カーン役
ボリウッドきっての実力派俳優ながら、作品の選び方が特徴的で、傍目にはその実力を出し惜しんでいるようにみえてしまいます。しかし、今作のサルダール・カーン役は、役の大きさとしても、人物像の複雑さからしても、その実力を発揮するのに十分な役でした。サルダール役を一言で表すならば、「複雑怪奇」。それはそのまま作品全体の特徴を反映しています。その複雑さをあえて解きほぐすのではなく、そのままの形で演じているマノージュ。代表作になるのは間違いないでしょう。
リチャ・チャッダー サルダールの妻ナグマ役
(写真はこの作品のものではありません)
ディバーカル・バナルジー監督の【Oye Lucky! Lucky! Oye】(2008)で、脇役ながら高い評価を得ましたが、その後はほとんど出演がありませんでした。一見、どこにでもいそうな女性ながら、作品中ではまったく違った雰囲気を放つタイプです。
今回、カシュヤプ監督による抜擢ですが、十分に期待に応えたといえるでしょう。限られた登場時間でも個性を発揮し、作品の「女たちの物語」の中核になります。パート2では老け役かと思いますが、こちらも期待できそうです。
リーマ・セーン サルダールの愛人ドゥルガー役
ヒンディー映画にもたまに顔を出しますが、基本はタミル、テルグの南インド映画に出演しています。南の作品はほとんど観ていませんが、今回【Gangs of Wasseypur】のドゥルガー役を見ると、こんなに演技ができる人だったかという感じがします。
ティグマンシュ・ドゥーリア 地元の有力者ラーマーディル・シン役
今回のサプライズ・キャスト。【Gangs of Wasseypur】には普通の意味での善悪はありませんが、主人公の仇敵という意味での悪役ラーマーディル・シン。こんな大役をやっているのは誰かと思ったら、【Saheb Biwi Aur Gangster】(2011)、【Paan Singh Tomar】(2012)と立て続けに面白い作品を作っている監督です。俳優としては今回が初出演。こんなキャスト、どうやって思い付いたんでしょう?
最近売れっ子のナズィームッディーン・シッディーキなど、まだまだ面白そうな人は多いですが、主にパート2での活躍になりそうなので、ここでは省略。
【Gangs of Wasseypur 1】
どでかい作品と対決してみたい人、マノージュ・バージパーイーの快心の演技を見たい人、作品の不思議な世界観にハマりたい人、お勧めです。