【Zindagi Na Milegi Dobara】 |
久々にインドの映画館での鑑賞でした。ショッピングモール内にあるシネマコンプレックスで、ほぼ同時間に隣のスクリーンではハリーポッター。外人さんを含め多くの観客がいましたが、【Zindagi Na Milegi Dobara】もそれに負けないくらいの盛況でした。
監督:ゾーヤー・アクタル Zoya Akhtar 出演:リティック・ローシャン、ファルハーン・アクタル、アバイ・デーオール、カトリーナ・カイフ、カルキ・コチェリン
監督のゾーヤー・アクタルはファルハーンの妹で、監督としてはすでにファルハーンが主演する【Luck By Chance】(2009)を撮っています。
トレイラー
ストーリー
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正装でひざまずき、指輪を掲げるカビール(アバイ・デーオール)。嬉しそうにそれを受け取るナターシャ(カルキ・コチェリン)。こうして二人の結婚が決まった。
まもなく結婚するカビールは、学生時代からの親友であるイムラーン(ファルハーン・アクタル)、アルジュン(リティック・ローシャン)とともに、独身最後の旅行をすることにする。行き先はスペイン。3人それぞれが行きたい場所を車で巡る3週間の旅。
ロンドンで株式のディーラーをしているアルジュンは仕事の虫。旅先でも仕事から離れらず携帯電話とラップトップで仕事を続けている。そんなアルジュンが出会ったのは、ダイビングのインストラクターをしているレイラ(カトリーナ・カイフ)。アルジュンは、自由に、強く生きるレイラと惹かれあい、いつしか仕事に凝り固まった心もほぐされていく。
軽薄を装うイムラーンだが、スペイン旅行には大切な目的があった。スペインで画家をしているまだ見ぬ父に会うことだった。だが、本当に会うべきかどうか迷っている。
そして、カビール。テレビ電話で話すナターシャとの間がどこかぎこちない。果たして?
親友3人による人生の旅。旅の終わりに待つものは?
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スペインに行って、ワインを飲み、ダイビング、スカイダイビングをし、トマト投げ祭りに参加し、フラメンコを踊るという設定で、「人生は2度はないから」というタイトルでは、とてつもなく享楽的人生推奨映画のようですが、なかなかどうして、インドから遠く離れたスペインの地での、男3人友人同士のの友情、恋愛など、人生模様を巧みに織り込んでいます。主役3人の好演もあり、優れた作品に仕上がっています。
日常から遠く離れた地を旅行することを通じて、自らの人生を問い直すという、いわば休暇ムービー。こうしたモチーフはハリウッド映画などにも多くありそうですが、【Zindagi Na Milegi Dobara】では、3人が抱える問題とその解決の過程が、旅行の進行と上手く組み合わされています。3人を描くバランスも巧み。ゾーヤー・アクタル監督の才能を感じます。
ロケ地はスペイン。これまでヒンディー映画でスペイン・ロケの作品があったのかどうかはわかりませんが、非常に珍しいロケ地であることは確かです。スペイン・ロケにすると、ロンドンやニューヨークなどとは違って、「インド系移民」がいないという設定が不自然ではなくなります(実際にはいるのでしょうが、イメージ的に)。実際にスペインでは登場人物の5人以外にインド人は出てきません。これが作品にインドからの隔絶感、旅先に非日常性を与えています。
【Zindagi Na Milegi Dobara】の背景にあるヒット作品があることはほぼ確実です。それは今年がちょうど公開から10年になる【Dil Chahta Hai】(2001)。監督ゾーヤー・アクタルの兄、今作に出演のファルハーン・アクタルがまだ20代で監督した作品です。アーミル・カーン、アクシャイ・カンナー、サイフ・アリー・カーンの3人が友人同士という設定で、年上の女性に恋したり、ふらりと車でゴアに遊びに行ったりなど、昔からインド映画には欠かせなかった家族、生い立ち、因習などと無縁の新しい都会的生活を描き、エポックメーキングとなった作品です。
【Dil Chahta Hai】タイトルソング
【Zindagi Na Milegi Dobara】も、それぞれの悩みを抱える3人が、最終的に「自分の人生」を見出す物語。作中では、「人生は家族のものではなく自分のもの」という台詞も出てきます。ただ、【Dil Chahta Hai】の公開当時はまさにインド自体が変わろうとしていた時期。現在では、その変化はすでに(少なくとも映画の世界では)定着してしまっており、【Zindagi Na Milegi Dobara】には「時代を築く」ようなインパクトはありませんが、【Dil Chahta Hai】が示した方向性の10年後の進化形といえるかもしれません。
音楽はフラメンコ、ボサノバなど、ラテン風ヒンディー・ソングがスペイン旅行の作品の雰囲気に合っています。しかし、これはというような印象の強い曲がないのが弱点です。また、今回は「Señorita」で、リティック、アバイ、ファルハーンが自ら歌うという面白い試みがあります。もっとも、リティック(【Kites】(2010))やファルハーン(【Rock On!】(2008))で自ら歌うのは経験済みです。
「Señorita」
最初にキャストを見たときに、思わずうなってしまったくらいすごい組み合わせ。
リティック・ローシャン 仕事に追われ自分を見失ったアルジュン役
スーパーヒーローでもない、皇帝でもない、普通の人間のリティックを見るのはずいぶんと久しぶり。そして、それがとても新鮮。本人も楽しかったのではないでしょうか。そんな感じが伝わってきました。仕事に追われてこばわっていた前半から、リラックスした後半へと表情が移り変わっていく様子は素敵でした。
ファルハーン・アクタル スペインにはある目的が。イムラーン役
3人の中で最も軽薄なノリで、海岸で出会ったレイラに真っ先に声をかけたのもイムラーン。アルジュンやカビールを始終からかっていますが、実はまだ知らぬ父に会うという目的があります。シリアスなイムラーンとして父に会うエピソードは、ロードムービーには欠かせない「旅の終わり」のシーンの一つになっています。
ところで、イムラーンは作中で詩を朗読しますが、この詩を作ったのはファルハーンとゾーヤーの実の父であるジャーヴェド・アクタルです。
アバイ・デーオール 独身最後の旅行となるカビール役
3人の中では、たびたび喧嘩をするアルジュンとイムラーンの仲介役。しかし、実は最後の最後に明かされる秘密を抱えています。【Dev. D】(2009)での好演で俳優としての評価は高まったいっぽうで、普通の商業映画に対応できるのかといった声もありました。しかし、今回、リティックやファルハーンに混じって互角に渡り合っており、その点もまったく心配ないでしょう。
カトリーナ・カイフ ダイビング・インストラクターのレイラ役
男3人の物語という作品の性質上、どうしても脇役になってしまい、登場する場面は飛び飛びなのですが、仕事の虫だったアルジュン(リティック)を変えていくきっかけを与えるという重要な役。自由で、恋愛にも自ら積極的に動く、強い女性の役。カトリーナ、最近は以前の「セクシー」に凝り固まったような役から離れて、さまざまな役にチャレンジしています。そして、なんと、リティックとのキスシーンが!(デビュー作【Boom】(2003)を除けば)初めて?
カルキ・コチェリン カビールの婚約者ナターシャ役
テレビ電話でカビールとレラが一緒にいるのを見て露骨に嫉妬したり、独身最後の旅行に押しかけてきたりと嫌味な女なんですが、一緒に旅行をすると結構いい人だったり、一定してないキャラ。もっとも、それもストーリー上の伏線と見ることもできます。カルキ、デビュー作の【Dev. D】(2009)では娼婦のような恰好をしながらも透明感のある役だったのに対して、今回はかわいらしい外見とは裏腹にアクが強いという正反対の役でした。【Dev. D】といえば、アバイ・デーオールとは2作続けてカップルの役。だいぶ違いますが。
【Zindagi Na Milegi Dobara】は非常に真面目、作りには隙がなく、ある意味で優等生的な作品。また、ほぼ全編スペイン・ロケでインド色が非常に薄いことなどから、旧来のゆるいインド映画を好む人には、味気ない、物足りないという気がするかもしれません。しかし、今のボリウッドで最も才能ある俳優たち3人の組み合わせを観るだけでも十分にその価値があると思います。
【Zindagi Na Milegi Dobara】
リティックのファンの人、個性的な3人の掛け合いを楽しみたい人、【Dil Chahta Hai】が好きな人、スペインにいったことがある人および行きたい人、お勧めです。
おまけ
個人的には、ダイビング、スカイダイビング、トマト祭りなど苦手なものばかりが待っているこの旅行には遠慮したいです。たとえカトリーナがインストラクターでも。