【Tees Maar Khan】 |
過去3年間、12月の最後はアーミル・カーンの指定席でした。【Taare Zameen Par】(2007)、【Ghajini】(2008)、【3 Idiots】(2009)とアーミル絡みの作品が公開され、いずれも大ヒット。今年はそのアーミル作品が不在。そうなると当然この人が登場します。【Main Hoon Na】(2004)、【Om Shanti Om】(2007)のファラー・カーン監督です。
監督:ファラー・カーン Farah Khan 出演:アクシャイ・クマール、カトリーナ・カイフ、アクシャイ・カンナー、サチン・ケデカル、ヴィジャイ・マウリヤ、アーリヤ・バッバル、サンジャイ・ダット(ナレーター)、サルマーン・カーン(特別出演)、アニル・カプール(特別出演)
トレイラー
ストーリー
****************************************
ティース・マール・カーンことタブリーズ・ミルザー・カーン(アクシャイ・クマール)は生まれつきの盗みの天才。ヨーロッパから戻った彼は、生涯最大の大仕事となる盗みを開始する。50億ルピー相当の財宝を積み、武装警官によって厳重に警護された走行中の列車から、財宝を奪うというものだ。
ティース・マール・カーンは列車が通過する村で架空の映画「Bharat Ka Khazana (『インドの財宝』)」を撮影するふりをし、そこで列車を待ち受けて強奪する計画を立てた。撮影を本物に見せかけるため、映画の主演にアカデミー賞に執着するエキセントリックな俳優アーティシュ・カプール(アクシャイ・カンナー)、ヒロインには恋人の駆け出し女優、「アイテム・ガール」アーニャ(カトリーナ・カイフ)を立てる。また、村人には映画への出演を約束し、協力を取り付ける。しかし、警備上の理由から列車の出発が1週間遅れ、ティース・マール・カーンたちは本当に撮影を開始しなければならないことに・・・。
***************************************
【Main Hoon Na】、【Om Shanti Om】を観てファラー・カーン作品の特徴をまとめるならば、娯楽作品としての徹底したサービス精神。ボリウッドのナンバーワン・コレオグラファーとして力を入れるダンスシーンはもちろん、ふつうのシーンでも常に何か観客を楽しませる要素を盛り込もうという気概が伝わってきます。
【Tees Maar Khan】でもそうしたサービス精神は発揮されていました。ダンスシーンは一流だし、笑えるシーンも多くありました。おそらく、そういうものは監督の才能であると同時に技能でもあって、作品ごとにそう大きくブレるものではないのでしょう。それにもかかわらず、作品全体ではストーリーの浅さを補いきれていないように感じました。
ストーリーは「ハイテンションの一本調子」というところでしょうか。基本的にテンションが高いところにさらに盛り上げるところはあっても、意図的に影を作ったり、調子を変えるところがほとんどありませんでした。別の言い方をすると描かれる人間関係の希薄さ。恋愛、家族愛、友情、仇敵の不在です。
もともとファラー・カーン作品では恋愛はサラリと扱われますが、それでも【Main Hoon Na】ではシャールクとスシュミターの、【Om Shanti Om】ではシャールクとディーピカーの恋模様がありました。【Tees Maar Khan】は出演がアクシャイ・クマールとカトリーナのケミストリーの2人。何かあると当然思いますが、実際はほとんどなし。2人だけで踊るラブソングがないのはその象徴です。
【Main Hoon Na】ではスニール・シェッティ、【Om Shanti Om】ではアルジュン・ランパルと、悪役に面白いキャストをしてきたファラー・カーン。今回はアクシャイ・カンナーがそうした役になると思っていましたが、違いました。一般論として映画に悪役が必須かという話は別にして、今作についてはストーリーのアクセントとしてあっても良かったのではないかと思います。そのほうがアクシャイ・カンナーも生きたはずです。
列車の場面は迫力不足。列車を使ったアクション・シーンといえば、【Dhoom 2】(2006)とまではいかなくても、【Drona】(2008)や【Luck】(2009)ですらそれなりのシーンになるもの。ちょっともったいないです。
と、いろいろ書きましたが、これらはあくまで「ファラー作品としては」、「これだけの期待作にしては」というレベルの話です。さしたる話の展開がなくてもインターミッションくらいまでは軽々と観客を引っ張ります。やはり、ダンスシーンの力が大きいです。
「Sheila Ki Jawani」
もちろん、サルマーン・カーンが特別出演して3人で踊る「Wallah Re Wallah」は必見。ダンスシーンのためだけでも【Tees Maar Khan】は観る価値はあると思います。
【Tees Maar Khan】ではファラー自身が過去の有名ダンスシーンからのインスピレーションでコレオをし、カトリーナが踊りまくるという触れ込みでした。たとえば、上の「Sheila Ki Jawani」は、【Hum】(1981)「Jumma Chumma De De」から(「Sheila Ki Jawani」のコレオはアシスタント・コレオグラファーのギーター・カプールが担当)。
【Hum】(1981)「Jumma Chumma De De」
http://www.youtube.com/watch?v=2hRkFIsWkT4
ほかにも【Pakeezah】(1972)からの曲や【Beta】(1992)の「Dhak Dhak Karne Laga」(アニル・カプールとマードゥリーの熱々ソング)があるという話でしたが、ないか、よくわかりませんでした。特にアクシャイとカトリーナで「「Dhak Dhak ...」はやって欲しかったのですが。全体で踊りがあるのは3曲。もう1、2曲増やして欲しかったです。
【Beta】(1992)「Dhak Dhak Karne Laga」
http://www.youtube.com/watch?v=J7qi_KvUvdQ
アクシャイ・クマール (ティース・マール・カーンことタブリーズ・ミルザー・カーン役)
最近はダメ男役が多かったアクシャイ・クマール(【Chandni Chowk To China】【Houseful】【De Dana Dan】【Khatta Meetha】【Action Replayy】)。今回は大泥棒ティース・マール・カーン(30人殺し!)としてギラっとしたところを見せています(特に前半)。少し昔のアクシャイを彷彿とさせて良かったと思います。
カトリーナ・カイフ ( 「アイテム・ガール」アーニャ役)
今回はあくまで踊りが中心。役としてはちょっと頭が弱い美女。【New York】(2009)、【Raajneeti】(2010)などで女優として成長著しいカトリーナがやるからシャレになります。少し前までアイテム・ガールと変わらぬ扱いだったことへの皮肉もあるでしょうか。ただ、踊り以外でももう少し出番があると良かったです。
【Tees Maar Khan】の生命線はカトリーナの踊り。技巧的に踊りが上手いのかどうかは分かりませんが、踊りで魅せることに関しては絶品。ただ、今回は役のために体を絞ったそうですが、お腹を出すあの衣装であれば、もう少し太めでも良かったかと(個人的好み?)思います。それもあって「Wallah Re Wallah」が一番素敵でした。
アクシャイ・カンナー (オスカー受賞を目指す(?)俳優アーティシュ・カプール役)
不出来というのとも、期待ハズレというのとも少し違いますが、ちょっと残念なのがアクシャイ・カンナー。今年はしばらくぶりに出てきて、【Aakrosh】では正義の刑事、【No Problem】ではコメディをやったので、ここはぜひとも悪役をやって欲しかったです。
ファラー・カーンはストーリーがなくともゴリ押しできるタイプのコメディ監督ではないので、やはりストーリーの薄さはマイナス。とはいえ、いつものとおり他の要素は盛りだくさんで、総合的には一定水準には達しており、歴史的傑作を期待するのでなければ十分に楽しめると思います。
【Tees Maar Khan】
やはりファラー・カーンならという人、カッコよいアクシャイ・クマールが見たい人、カトリーナの踊りを見たい人、お勧めです。