【Mirch】 |
12月の一番の注目作はもちろん【Tees Maar Khan】ですが、テーマやキャストでちょっと面白そうだと思ったのがこの【Mirch】。愛や性をコメディ・タッチで描くという珍しさもさることながら、出演する俳優陣は曲者揃い。これは観ないわけにはいきません。
監督:ヴィナイ・シュクラ Vinay Shukla 出演:シュレヤス・タルパデー、ライマ・セーン、コンコーナー・セーン・シャルマー、シャハーナー・ゴスワーミー、マヒー・ギル、アルノダイ・シン、ラジュパル・ヤーダヴ、ボーマン・イラーニー、スシャント・シン、プレーム・チョープラー、ソーラーブ・シュクラ、ティスカ・チョープラー、イラ・アルン
トレイラー
ストーリー
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マーナヴ(アルノダイ・シン)は脚本家。才能はあるが、自分のスタイルにこだわるあまり、なかなか売り込めない。見かねたガールフレンドのルチ(シャハーナー・ゴスワーミー)に説得され、プロデューサーのニティン(スシャント・シン)に脚本を持ち込むが、ロマンスもセックスもない話では売れる見込みがないと断られてしまう。
落胆するマーナヴだが、あるアイデアがひらめく。ロマンスやセックスを取り入れるのではなく、まさに愛や性をテーマにしたちょっと辛口な4つのストーリー。ルチとニティンを前に、マーナヴは語り始めた。妻(ライマ・セーン)の浮気の現場を押さえようとベッドの下に隠れる男(ラジュパル・ヤーダヴ)、老王(プレーム・チョープラー)に不満で王の忠臣(アルノダイ・シン)の気を引こうとする若い王妃(コーンコーナー)、フライトがキャンセルになり急に家に戻った夫(シュレヤース・タルパデー)を待っていたのは?男(ボーマン・イラーニー)がホテルで売春婦を呼んだら来たのはなんと・・・!
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一般向けの映画にキスシーンやベッドシーンが当たり前になってきたにも関わらず、性そのものをテーマにした作品は少ないボリウッド。【Mirch】はそんな「大人の事情」をユーモアにくるんで見せてくれるコメディです。凝った全体構成と優れた俳優陣の演技で、あまり生々しくなりすぎず、一方おふざけにならないというバランスが絶妙です。
4本の短編からオムニバスで、「パンチャタントラ」(古代インドの説話集)になぞらえられたています。それを脚本家のマーナヴが語る形を取りますが、マーナヴ自身の話がメインストーリーとして機能して、それぞれの作品を結び付けます。また、4本の作品中3本にマーナヴのアルノダイ・シンが登場するほか、ライマ・セーンとコーンコーナー・セーン・シャルマーがそれぞれ2本ずつ登場するというように、出演者が重なるところもユニークです。ちなみにアルノダイ・シンは登場する3本すべてで間男(笑)。
90年代のダヴィッド・ダーワン監督のコメディや、アニーズ・バズミー監督の【No Entry】など、夫が浮気して妻から逃げ回るというモチーフは昔からありましたが、【Mirch】では浮気するのはすべて妻の側(ボーマンとコンコナーのはちょっと違いますが、基本的なところは同じ)。時代も設定も異なる4本であるため官能の表現もそれぞれ異なりますが、女性側が積極的なのは共通。このへんも斬新でした。
シュレーヤースとライマ・セーンの話の前半がやや長いという感じがしたほかは、いずれの話もよくまとまっているうえ、辛口のユーモアも利いています。また、4本ともしっかりしたオチがついていました。
曲者ぞろいの俳優陣ですが、さすがにしっかりした演技。【Mirch】は演技で見せるところもあります。
アルノダイ・シン (語り手となる脚本家マーナヴ役、他3役)
この作品の主役、大活躍でした。全体の語り手となるほか、自身で3編に出演しています。インド国民会議派のベテラン政治家アルジュン・シンの孫で、【Sikandar】(2009)でデビューしました。【Sikandar】では子供を利用するテロリストの役、前作【Aisha】ではソナム・カプールが好きになる男の役でしたが、いずれもハンサムではあるものの、セリフもボソボソ(声はいいのですが)で、演技もまだまだといった感じ。しかし、今回は繊細なインテリ風のマーナヴ役など、見違えました。クナール・カプールがいま一つ伸び悩むなか、ひょっとするとこれから人気になるかもしれません。
ライマ・セーン (浮気をする妻マーヤー/マンジュラ役)
2編に登場で、いずれも浮気をする妻の役。ライマ・セーン、最近では【Japanese Wife】で見たという人が多いかもしれませんが、常々不思議に思っていました。ベンガリー映画ではそれなりに演技が評価されているにもかかわらず、ヒンディー映画では演技派ともセクシー路線とも、どっちともつかない中途半端な役ばかり。しかし、今作はとにかく妖艶。しかも、奥底に毒を秘めた悪女という雰囲気も出ていて好演でした。
コーンコーナー・セーン・シャルマー (王の忠臣に誘いをかける王妃ランヴィ役/アニタ役)
こちらも2編に登場。ライマ・セーンのような妖艶さを見せるわけではありませんが、ずるがしこく、したたかな悪女。ふだんはお人好しの役が多いですが、こうした悪い役を、しかもコメディ風に演じられるところはさすがに演技派。
シャハーナー・ゴスワーミー (マーナヴのガールフレンド、ルチ役)
メインストーリーの登場人物。売り込みが下手なマーナヴを励まし、尻を叩いてプロデューサーのところに行かせ、一緒に話を聞くというだけの役ですが、この人が出てくると話がしっかりした現実感を持ってきます。すでにトップクラスの脇役女優ではありますが、最近特に出演作の公開が相次ぎ、勢いのある女優さんです。
王妃役のコーンコーナーが身に着けていた宝石類は、宝石店の協力を得て、すべて本物。何百万もする高価なものだそうです。
監督、俳優陣など、高い才能のスタッフによって作られた作品といった印象。いつもとはちょっと違うユーモアを楽しむにはいいと思います。
【Mirch】
「大人のコメディ」ならぜひ観たいという人、妖艶なライマ・セーンを見てみたい人、曲者俳優が好きという人、お勧めです。