2010年 11月 12日
【Dunno Y Na Jaane Kyun ...】 |
インド初の本格的ゲイ映画ということでしたが、途中で検閲と揉めたり、公開日が何度も延期されたりするなど、なかなか順調に公開にこぎつけるというわけには行かなかったようです。
監督:サンジャイ・シャルマー Sanjay Sharma 出演:カピル・シャルマー、ユーヴラージ・パラーシャル Yuvraaj Parashar、ズィーナト・アマーン、ヘレン、リトゥパルナ・セーングプタ、マラドーナ・レベーリョ、ヘイゼル、カビール・ベーディ
トレイラー
タイトルソング・プロモ
(こちらのほうが作品の雰囲気を伝えている気がします。歌はラタ・マンゲシュカル)
ストーリー
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ムンバイに家を構えるクリスチャンのレベッカ・デスーザ(ズィーナト・アマーン)。昔、夫のピーター(カビール・ベーディ)が突然家を去って以来、母マーガレットや子供たちを女手一つで育てきた。生活のため、ときには意に沿わない男性と関係を持ったりもしてきた。だが、今や長男のアシュリー(ユーヴラージ・パラーシャル)はジェニー(リトゥパルナ・セーングプタ)と結婚し子供もでき、一見すると幸福な家庭を築いているようにみえた。
しかし、ある日レベッカの元夫であるピーターが戻ってきた。ガンで死期が迫っており、死ぬまでに家族と過ごしたいと。さらに、息子たちには秘密があった。弟のサム(マラドーナ・レベーリョ)は兄の妻であるジェニーに言い寄っていた。アシュリーはゲイであり、ネットで知り合ったモデルのアーリヤン(カピル・シャルマー)と愛し合うようになっていた。
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インド初のゲイ映画という触れ込みにウソはありませんでしたが、作品全体におけるゲイの部分の扱いは思っていたよりも小さいものでした。基本的にはホームドラマで、家族のそれぞれが問題を抱えており、そのうち一つが長男のゲイであるという構成でした。したがって、ゲイというテーマがなければただのホームドラマなのですが、そのホームドラマの部分の出来が平凡でした。昔出て行ったが突然舞い戻り、死期が迫っていると言う夫、冷め切った夫婦仲のところに夫の弟に言い寄られ動揺する妻など、どれも掘り下げ不足で安っぽい話になってしまいました。
特に夫の弟との恋愛関係はタブーといえばゲイに負けないくらいのタブー。本来これがゲイの話と対にならなければいけないのですが、明らかに不十分でした。こうした平凡なホームドラマ部分が前半いっぱい続きます。また、エンディングも冗長でした。
ゲイの部分は非常に自然な取扱いに思えました。おかしな言い方ですが、男同士でなければボリウッドの普通のラブストーリーとさして変わりません。最初は遊びのつもりが、相手の真剣さにほだされ好きになる、好きになった二人だが一人はすでに結婚しており、結婚相手や子供のことを考えると関係を続けるべきかどうか迷う・・・などなど。特にゲイのカップルであるがゆえの問題が生じる場面はありませんでした(車でキスしている際に警官に職質され、いやがらせを受けるというシーンはありましたが、これは男女のカップルでもありえます)。このため、作品としては特に挑発的あるいは啓蒙的な印象は受けませんでした。
ゲイ役の二人の演技が自然だったことも、上のような印象を受けた理由でしょう。その意味では好演といえるでしょう。検閲でカットされたシーンがどのようなものだったかは分かりませんが、さほど影響はなかったのではないかと思います。
ただ、主人公たちの家族がクリスチャンであるのが気にかかりました。一種の性同一障害を描いた【Pankh】(2010)もキリスト教徒の家庭でした。ヒンドゥーやムスリムの家ではダメで、クリスチャンの家ならば大丈夫と考えたのだとしたら問題です。
ゲイの描き方についてはいろいろ意見が出るかもしれませんが、これまで全くなかったテーマだったことを考えると、無難なところでまとめて正解だったのではないでしょうか。ただ、ゲイのエピソード以外の部分が平凡なことが、全体としての出来を落としています。
【Dunno Y Na Jaane Kyun...】、問題は作品の出来は別にしても、プロモーション面にもあります。制作時からインド映画初の「ゲイのキス・シーン」だとか「ゲイのセックス・シーン」が話題になってきました。これが意図的な宣伝なのかどうかは不明ですが、そういった面が取り上げられるのはある程度仕方ないでしょう。しかし、検閲と揉めた頃から宣伝でズィーナト・アマーンやヘレンといった「往年の名女優」をプロモーションの前面に出してきました。そして、最後は公開日が大幅に遅れたうえ、公開直前にはほとんど宣伝がなされずといった具合で、不手際が目立ちました。
カピル・シャルマー (次第にアシュリーを好きになるアーリヤン役)
アジャイ・デーヴガンの【Legend of Bhagat Singh】(2002)に脇役で出ていたようですが、知りませんでした。今回は見かけはいかにもゲイというような男性モデルの役。最初は遊びのつもりだったのが、相手のアシュリーの純粋さにより次第に魅かれていく役、しかもそれをゲイとして演じるのですからなかなか難しかったと思いますが、好演だったと思います。他の役への汎用性があるのかどうかは分かりません。
ユーヴラージ・パラーシャル (ゲイであることを家族に隠しているサム役)
こちらは回りにはゲイであることを隠している役で、そうと言われるまでは分からないという役です。前半の退屈な仕事人間からいきなりの変身、こちらもまずまずの演技でした。
ズィーナト・アマーン (女手一つで家族を支えるレベッカ役)
つい先日【Do Dooni Char】(2010)で往年の女優ニートゥー・シンがスクリーン復帰を果たしましたが、こちらも往年の名女優の復帰です(【Ugly Aur Pagli】(2008)などへの出演はありましたが)。好きなの女優さんの一人です。ただ、やはりブランクの影響はあるようでした。年齢はしかたないにしても、ずっと映画に出続けているシャバーナー・アーズミーや、引退はしていても俳優と結婚してときおり姿を見せていたニートゥー・シンなどと比べると、華やかさのようなものがなくなっている気がしました。しかし、さすがに演技の点ではときおりいいところを見せていました。ボリウッド映画の女性像を変えたと言われる名女優、本格復帰を期待したいです。
リトゥパルナ・セーングプタ (夫の弟の求愛に戸惑うジェニー役)
(写真はこの作品のものではありません)
派手さはないですが、いつも安定して力を発揮する女優さんです。外見では最近で一番のセクシーな役なのですが、どうもキャラクターがはっきりしない役で損をしています。
マラドーナ・レベーリョ (兄の妻に言い寄るサム役)
(写真はこの作品のものではありません)
デビューの【Pankh】(2010)では女の子役として出演していたため、自分の性別のアイデンティティーを失ってしまった青年の役でした。今回はゲイの役ではありませんが、なんとなく似たようなテーマの作品に続けての出演になってしまいました。次は方向を変えないといけません。兄の妻に平然と言い寄る弟の役ですが、ちょっと謎めいた雰囲気で似合っていました。ただ、こちらもキャラクターの設定が不十分でした。
【Dunno Y Na Jaane Kyun...】
「初」のものは見逃せないという人、ゲイがテーマの作品ならぜひという人、ズィーナト・アマーンが好きな人、お勧めです。
by madanaibolly
| 2010-11-12 23:09
| レビュー