2010年 05月 21日
【Kites】 |
【Jodhaa Akbar】以来2年数ヶ月振りのリティック・ローシャン主演作です。映画館はかなりの入りで、だいぶ前のほうで観ることになりました(インドの映画館は後ろの席から詰めていきます)。
監督:アヌラーグ・バス Anurag Basu. 出演:リティック・ローシャン、バーバラ・モリ、カングナ・ラナウト、カビール・ベディー、ニック・ブラウン、ユーリ・スーリー
監督のアヌラーグ・バスは最近の2作【Gangster】(2006)、【Life In A … Metro】(2007)が高い評価を受けました。そして、いよいよ今回、主演にリティック・ローシャンという超大物を迎えての大作の監督となりました。
トレイラー
ストーリー(ネタバレはありません)
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メキシコの砂漠。銃弾を受け、意識は朦朧としながらも彷徨う男ジェイ(リティック・ローシャン)。彼がなお生きようとするのは愛する女性ナターシャ(バーバラ・モリ)のため。追われて傷ついたジェイの命を救ったのは彼女だった。だが、傷を受けたときに落とした携帯電話を探し当てると、そこには彼女からのメッセージ「あなたのもとを去ります。永久に。ごめんなさい」。いったい彼女に何が起こったのか?
3ヶ月前。
ジェイはラスベガスにいた。ダンススクールの先生として気ままな生活を送り、金のために良からぬことにも手を出していた。ジェイはスクールの生徒ジナ(カングナ・ラナウト)が大カジノのオーナーであるボブ(カビール・ベディー)の娘であることを知り、ジナに近づき、結婚の約束までする間柄となった。
しかし、ジェイには運命を変える出会いが待っていた。ジナの兄トニー(ニック・ブラウン)と結婚したナターシャ(バーバラ・モリ)。ナターシャはメキシコから移民で、かつてリンダとしてジェイと滞在許可のための偽装結婚をしたことがあった。ナターシャは金のためにトニーと結婚したが暴力的な夫に嫌気がさしており、ジェイとナターシャは恋に落ちる。そして、あるきっかけで2人の関係がトニーに知られ、2人はトニーから逃げることになった。怒りと復讐心に燃えるトニーは、娘が騙されたと信じる父親ボブの権力も借り、2人を執念深く追跡する。かくてアメリカから国境を越えてメキシコへ、2人の逃避行が始まった。
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非常にスケールの大きな作品で、構成もしっかりしており、リティックをはじめとする俳優の演技も素晴らしかったと思います。作品としての完成度は非常に高いです。観るべきかと問われたら、自信を持って観るべきだと言うと思います。しかし、いっぽうでどこか心を打つものが足りないという印象を受けたのも事実です。
全編アメリカ、メキシコが舞台で、ラスベガスのネオン街からメキシコの砂漠まで、その風景がたっぷりと映しこまれており、そこでリティックたちによるアクションその他のエピソードが展開されます。よくハリウッド映画などでは砂漠を「殺風景」の象徴として撮ることがありますが、【Kites】でアヌラーグ・バスが砂漠を撮るときに意識したのはその雄大さではないでしょうか。ジェイのセリフにある「怖いが、気分はいい」という逃避行の風景にピッタリです。
ストーリーは傷ついたジェイが謎のメッセージを残したナターシャを追う現在と、3ヶ月前の彼女との出会い(実は再会)前後から始まるエピソードの二重構成になっています。現在のジェイが過去を回想の形を取りますが、現在と過去との行き来のタイミングが非常に巧みです。【Life In A … Metro】であれだけ複雑な話を見事にまとめ上げた監督の力量はここでも発揮されています。
そして、リティック。今回の役はまさにリティックにうってつけの役でしょう。インドをかけはなれた外国を舞台にした作品で、外国人女優を相手役にして、異邦人としてのインド人ではなく、普遍的な人間像を演じきっています。
しかし、どこか心を打つものが足りません。それが何かを言うのは非常に難しいのですが、おそらく、ジェイとナターシャの間の「愛」ではないでしょうか。すべてを捨てて逃避行に走らせるほどの強い愛であることは分かるのですが、途中でぶれたり揺らいだりしないストレートな愛で、悪くいうと一本調子です。アヌラーグ・バス監督が【Gangster】や【Life In A … Metro】が見せたねじれた愛や皮肉がかった愛に慣れた私には清すぎたということでしょうか。
「清すぎる」に関連して思い浮かぶのが、【Kites】でのカングナ・ラナウトの役割。当初、カングナはリティック、バーバラとともに【Kites】の主人公になると考えられていました。しかし、作品の宣伝にいっさい顔を出さなかったことからいろいろな噂が立ちましたが、結局、公開の直前になって、カングナは特別出演程度の役割しか果たしていないということが分かりました。実際、作品での登場時間はわずかです。「リティックに騙されて捨てられた大カジノ・オーナーの娘役のカングナ」、面白そうですね。澱んでますね。【Kites】に足りないのはこうした人間関係の澱みなのかもしれません。ジェイたちを追うトニーは限りなく人間味のないターミネーターみたいな奴でしたし。
上のストーリーでは伏せておきましたが、ナターシャのメッセージについての謎は結末で明かされますが、ストーリー的にはやや弱い気がしました。ただし、ヴィジュアル的には圧巻です。
音楽はメロディアスながら単調でした。唯一のダンス曲「Fire」を除くと、スローなバラードで運転シーンか結婚式のシーン。「Kites in the Sky」はリティック自身が歌っています。一緒に歌っているのは「外国人っぽく」歌うのが得意なスザンヌ・ドゥメロ Sussanne D’Mello.
ほとんどリティックとバーバラの2人の世界でした。
リティック・ローシャン (逃げ、そして追うジェイ役)
スーパースターとしての貫禄を遺憾なく発揮しています。ちょっとワルなところから、途中のチャーミングなところ、最後の不屈のところまで、演技者としての力量を示しています。さらに「Fire」のダンスシーンでは例によって超人的な動きを見せています。リティックの特徴はインド人ぽくないキャラクターを演じられること。【Krrissh】や【Dhoom 2】、【Jodhaa Akbar】のような架空の(アクバルは実在ですが実像は知られていません)の人物が似合うのはそのためです。
バーバラ・モリ (すべてを捨ててジェイと逃げるナターシャ役)
インドの女優さんの演技スタイルとはまるで違いますが、なかなか良かったと思います。おそらく過去にインド映画に出演した欧米の女優さんと違い、あえてインドに合わせる必要がなかったのが良かったのかもしれません。特に彼女のホームグラウンドであるメキシコでのシーンは特に魅力的でした。バーバラ・モリはウルグアイ生まれ、メキシコで活動する女優さんです。祖父が日本人ということなので、おそらく名前は「森」から来ているのでしょうか。外見的には日本人の血が入っていることは言われないと分かりません。
カングナ・ラナウト (カジノ・オーナーの娘ジナ役)
ちょっとの出演でした。アヌラーグ・バス監督の作品には【Gangster】、【Life In A … Metro】、【Kites】と3作連続の出演になります。監督はカングナについて「僕の作品のお守りみたいなもの」と言っていましたが、実はそれ以上で監督が得意とする世界を描くのに適した女優さんなのではないでしょうか。カングナの出番が少なかった(または少なくなるような作品となった)ことの影響は上に書いたとおりです。【Kites】での見どころはリティックと踊る「Fire」。リティックの横で踊るとは勇気があります。体が柔らかいことがよく分かります(これはどうでもいいか)。
【Kites】
ラテンの風を味わいたい人、スケールの大きな作品の雰囲気を楽しみたい人、リティック作品なら見ておかないとという人、アヌラーグ・バス監督作品を追いかけている人、お勧めです。
by madanaibolly
| 2010-05-21 23:23
| レビュー