2010年 04月 25日
【City of Gold】 |
今月の初めに4月の新作公開スケジュールをチェックしたときにはこの作品の名はありませんでした。それがいきなり割りこんできたように公開。大作の合間を狙って公開しようとする中小作品にはしばしばありますが、宣伝期間が短かったりなどであまり上手くはいかないようです。
監督:マヘーシュ・マンジュレカル、出演:サチン・ケデカル、カラン・パテル、アンクシュ・チョウドゥリー、シーマ・ビスワス、カシュミラ・シャー、サティーシュ・コーシックほか
監督のマヘーシュ・マンジュレカルは俳優で、最近では【Slumdog Millionaire】のギャングの親分ジャヴェド・カーン役などをやっています。【City of Gold】はマラーティー語版もあり、そちらのタイトルは【Lalbaug Parel】、ムンバイの(元)工場地区の名前です。
トレイラー
ストーリー
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1980年代のボンベイ。過去にボンベイの繁栄を支えてきた繊維産業は衰退の一途をたどっていた。1982年、労働組合は労働者の生き残りをかけた大ストライキを敢行した。
ボンベイの労働者向け住宅に暮らすある大家族。長年繊維工場に勤めてきた工場労働者。もうじき定年を迎える家長のアナ(シャシャンク・シェンデ)をはじめ、家族それぞれにストライキが影を落とし始める。金に困りマフィアの仕事を手伝うようになる三男のナールー(カラン・パテル)。ずっと年上の労働組合指導者レネ(サチン・ケデカル)と結婚することになるマンジュ(ヴィーナ・ジャムカル)、隣の人妻と関係を持つ次男のモーハン(ヴィニート・クマール)。
工場の土地を売却することを目論む工場主はマフィアを雇い、ストライキを潰しにかかる。長引くストライキに労働者の士気は落ち、子供たちの心も次第に荒んでいく。
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ボンベイはインドの近代繊維産業の発祥の地。1850年代に最初の綿紡績工場が作られて以来、繊維産業はボンベイの経済を支える重要産業として発展し続けました。しかし、インド独立後はインドの他地域との競争などで次第に衰退し、1980年代には産業としての重要性は失われていました。しかし、多くの労働者は他に行き場がないため、労働組合をよりどころに最後の抵抗を試みました。そして起きたのが1982年の大ストライキでした。最終的に労働者は敗北し、ボンベイの労働運動、そして繊維産業が事実上終焉を迎えました。現在では当時の労働者地区は再開発の波にさらされ、その跡地にショッピング・モールなどが続々と建設されています。
作品の前半に労働運動の指導者として「ドクター」バーブーラーオ・サヴァントという人物が登場しますが、これは実際に1982年のストライキの指導者的存在であったダッタ・サマントがモデルになっています。
力強い作品でした。ボンベイの工場地区を舞台に、濃密な人間関係と次々に起きる事件とで、最後まで観客を引っ張ります。
1980年代のボンベイの工場、工場地区、労働者向け住宅など、当時の風景が非常に良く再現されていました。ちょうど同じ頃のボンベイを舞台にした【Striker】でも雰囲気の再現に感心しましたが、【City of Gold】も負けていません。特に操業シーンをはじめとする工場のシーンは機械が実際に動いており(他の作品で止まっている機械はよく出てきますが)、よく再現されていました。
作品の舞台は、主役の家族が住むバスティーとよばれる低所得者向けの住宅です。今でも同じ状況かもしれませんが、一部屋にいったい何人住んでいるのか数える気もしないほど人口過密です。しかし、そんな中【City of Gold】は一種の長屋人情モノでもあります。プライバシーのかけらもありませんが、困ったときには助け合ったりするなど、濃密な人間関係が貧しい暮らしを支えます。もっとも濃密すぎて隣の人妻と関係を持ってしまったりなどというのもありますが。
バスティーでの娯楽として屋外で映画の上映会のシーンがあり、アミターブの出演作が上映されていました(【Striker】でも同じシーンがあり、あちらはゴーヴィンダの出演作)。この前公開された【Tum Milo Toh Sahi】では古いバスティーを取り壊すシーンが出てきます。
ストーリーは息もつかせぬ間隔で次々と起きる出来事の連続です。ちょっとあまりにも出来すぎたタイミングで事件が起きすぎる気もしましたが(父親の心臓発作など)、退屈する暇がないくらい詰め込まれていました。
ストライキの失敗が明らかになり、荒廃した工場地区では子供たちの心も荒み、ふつうでは考えられないような残虐性を示すというところは【City of God】と被ります。まさかタイトルが一時違いだからではないでしょうが、ポスターもそんな雰囲気です。後半はかなりバイオレントなシーンも出てきます。
出演者はみな地味な俳優ながら、非常に力強い演技で作品のみどころになっています。ちょっとテンションが高すぎて辟易するところもあるかもしれませんが、作品の濃密さの一部と考えるのがよいでしょう。
カラン・パテル 犯罪に手を染める三男ナールー役
正義感が強く家族や仲間を守るためならなんでもしますが、金のためにマフィアの仕事を引き受けたことが裏目に出てしまいます。カラン・パテルは初めて見ますが、なかなかいい演技でした。
サチン・ケデカル 労働組合の指導者レネ役
労働運動一筋の活動家の役です。しかし、結局ストライキは失敗に終わり、それまでついてきた労働者からも見放されます。いっぽう、若いマンジュと結婚してぎこちない夫婦となります。サチン・ケデカルはマラーティー映画にもよく出る俳優で、ヒンディー映画ではほとんどが良い父親の役ですが、たまに悪徳政治家などもやったりします。
ヴィーナ・ジャムカル 長女マンジュ役(写真右)
関係を持った男が実は既婚者で、妊娠、中絶することになります。その後、労働組合指導者のレネと結婚します。過去の心の傷を残しているマンジュ役、ヴィーナ・ジャムカルはマラーティー演劇の女優で、マラーティー語映画にも出演しています。
シッダールタ・ヤーダヴ 発達障害のスピードブレイカー役
発達障害で、ときどきおかしなことをしでかしますが、作品においては重要な役割を与えられています。怒ったときの演技など、なかなか迫力がありました。これまでの出演作をみてみたら、【Golmaal】に【Golmaal Returns】。コメディだったんですね。
カシュミラ・シャー
一昔前はアイテムガールとしてよく出ていました。【Wake Up Sid】(2009)では隣のセクシーなお姉さんといった役。今回は子供もいる役でもう少ししっとりとした役です。しかし、セクシーであることにかわりはなく、次男のモーハンはふらふらと・・・。
ストーリーも作りもしっかりしており、十分に観る価値がある作品です。ボンベイの過去を知るという意味でもいい作品だと思います。ただ、残念ながら、1980年代のボンベイの労働運動というテーマでは、さすがに地味過ぎて、経済発展への関心真っ盛りのインドではあまり関心が持たれない気がします。
【City of Gold】
昔のボンベイに興味がある人、インド風長屋モノを楽しみたい人、バイオレンス映画が好きな人、お勧めです。
おまけ
ストーリーは劇作家の長男が現在から回想するという形をとっています。女性と一緒に家を購入するのですが、二人の関係は結婚ではなく同棲 (live-in)。最近、【Rann】ではリテーシュとグル・パナグが、【Apartment】ではローヒット・ローイとタヌシュリー・ダッタがそれぞれ同棲の関係です。インドでは先頃、最高裁が「同棲は違法ではない」という判断を下したばかり。これからしばらく、同棲はボリウッドのトレンドになるかもしれません。それにしても相手の女優さん、若かりしプーナム・ディロンを思わせる美人でした。
by madanaibolly
| 2010-04-25 03:40
| レビュー