【Kaminey】 |
旅先で観る映画の印象というのは、おそらく普段観るときとは異なっているはずです。今回たまたま【Kaminey】がそうなりました。よって以下の感想もそのようなものだと思ってお読みください。
監督:ヴィシャル・バルドワジ Vishal Bhardwaj. 【Maqbool】(2004)、【Omkara】(2006)などシェークスピアから発想を得た重厚な作品で有名です。出演:シャーヒド・カプール、プリヤンカ・チョープラ、アモル・グプテ Amol Gupte、チャンダン・ローイ・サニヤル Chandan Roy Sanyal(新人)ほか。
トレイラー
ストーリー
*******************************************************************
【Kaminey】はグッドゥとチャーリー(シャーヒド・カプール、2役)の双子の物語。グッドゥは吃音症、チャーリーは発音障害を持ち、その他の点でもまったく異なる二人。二人の人生も次第に別の方向をたどることになった。グッドゥはNGOの訓練生で将来のキャリアを思い描いており、チャーリーは競馬のブックメーカーに出入りして利ざやで生計を立てており、将来は自らブックメーカーとなることを夢見ている。しかし、グッドゥは恋人スウィーティ(プリヤンカ・チョープラ)を妊娠させてしまい、結婚することに。その結婚式の夜、チャーリーはふとしたことから、巨大な利益が絡んだ事件に巻き込まれる。雨の降る夜、異なる道を歩んでいた双子の兄弟、グッドゥとチャーリーの運命が交錯する。
*******************************************************************
正直、かなり難解な映画でした。私には、そして少なくとも一回観た限りではきちんと理解するのは困難です。画面の迫力、俳優の演技の凄みは感じられるものの、その点でちょっぴり消化不良な感じが残りました。
一番の原因はそのハードボイルドな作り。主人公二人の内面を描写するセリフや映像はほとんどありません(そもそも二人とも発声障害があり、基本的に無口!)。さらに周りの人間関係が複雑なうえ、数々の事件が次々に展開していくとあってはなかなかついていけません。ストーリーを明確に語るというよりは、それぞれのシーンの印象の連続で構成されている感じです。この点では、ストーリーテリングに重点を置いた【Love Aaj Kal】などとは対称にあるといえるでしょう。
さらに、これは私の問題ですが、SがFになるチャーリーのセリフ。たったそれだけなんですが、意外と聞き取りが難しく、頭の中で置き換える分聞き取りがあやふやになってしまいました。むしろ、そこに意識を集中しないほうが、全体としての意味が頭に入ってくる気がしました。
この作品、暴力シーンが多いということで(プリヤンカのラブシーンではなく)A指定になりました。確かに暴力シーンは多く、A指定は仕方ないとは思いますが、全体として作品のバランスが失われるほど過剰ではなかった気がします。そして、暴力シーンも含め、非常に叙情性のある映像がすべてを包みこんでいます。クライマックス・シーンの迫力と美しさは必見でしょう。
音楽は音楽監督出身であるヴィシャル・バルドワジ自身が手がけています。そしてなんといっても「Dan Te Nan」、今年一番のヒット曲です。歌はスクヴィンデル・シン、この声、このノリ、この人にしかできません。
【Omkara】がそうだったように、ヴィシャル・バルドワジ監督の作品では、キャラクターが俳優の体の隅々にまで染み付いたかのような印象を受けます。少しくらいストーリーがあやふやでも、作品としての独特の雰囲気と迫力が感じられるのはまさにこのせいでしょう。【Kaminey】でもやはり皆の演技は強烈でした。
シャーヒド・カプール (性格その他まったく異なる双子の兄弟グッドゥとチャーリーの2役)
チャーリー
グッドゥ
シャーヒドといえば、共演者(特に女優さん)との掛け合いが上手な俳優という印象でしたが、今回は二役という活躍の場を得て、強烈な自己主張をしています。特に悪漢チャーリー役には注目。シャーヒドの転機になるかもしれない役です。ただ、骨の髄までの悪ではないところはシャーヒドゆえか、そのような役作りなのかは観た人の判断にお任せします。また、吃音症と発音障害という二人を最後まで通して演じている点でもなかなか評価できるでしょう。
プリヤンカ・チョープラ (ときに可愛く、ときに激しいスウィーティ役)
プリヤンカの快進撃が止まりません。今回のスウィーティー役、セクシーにグッドゥを誘惑し、大声で泣きわめき、警官の制止を振り切って警察署内を駆け回ったり、果ては機関銃を振り回す、なんとも破天荒ですが、とても魅力的な役です。出ずっぱりだった【Fashion】に比べると登場時間は短いですが、印象は負けずに強いです。特に、シャーヒドとのラブシーンは露出はなくとも「超」がつく色っぽさ。【Dostana】、【Fashion】(あ、【Drona】も)、そして【Kaminey】と、さまざまな役を意欲的にこなしているプリヤンカ、向かうところ敵なしといった感じです。
アモル・グプテ (ギャングから悪徳政治家に転身したスニル・シェカル・ボーペ役。スウィーティの兄)
ちょっと見、人がよさそうに見えながら、そうとうなワル。マラーティー至上主義者(グッドゥがムンバイではなくバンバイといったらどつかれました)でもあります。実際にムンバイの政治ではダーダー Dadaとよばれる地域の実力者(裏社会も含め)が大きな政治力を持っています。アモル・グプテ、なかなかの好演でした。この人、なんと【Tare Zameen Par】の脚本を書いています。なんというギャップ!
チャンダン・ローイ・サニヤル Chandan Roy Sanyal
(チャーリーの唯一の友人、ミハイル役)
新人で脇役ですが、なかなか印象が強い役でした。なかなかカッコいいです。将来売れるかもしれないので、先物買いで。
【Kaminey】
ちょっと難解に耐えられる人、これまでとは違うシャーヒドを見たい人、プリヤンカのファン、【Omkara】は好きだという人、お勧めです。