2010年 02月 13日
【My Name is Khan】 |
この作品とは直接関係ないシャールクの発言から生じた論争(正確には論争でもないですが)のため、【My Name is Khan】を巡って大騒ぎになっています。そんな中、とりあえずは観ることができてよかったです。
監督:カラン・ジョーハル、出演:シャールク・カーン、カージョル、ジミー・シャーギルほか。
トレイラー
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ストーリー(重要なネタバレはありません)
2007年。サンフランシスコ空港。リズヴァーン・カーン(シャールク・カーン)はセキュリティ・チェックの別室で係官の取調べを受けている。リズヴァーンが傍目からは挙動不審に見えるのはアスペルガー症候群のせい。係官はリズヴァーンにワシントンに行く理由を問う。リズヴァンの答えは「大統領に会って、メッセージを伝えるため」。さらに問い詰める係官にリズヴァンが答えたメッセージの内容とは「私の名はカーン。私はテロリストではない。」
飛行機に乗り遅れたリズヴァーンはバスを乗り継いでワシントンに向かう。しかし、ワシントン行きはリズヴァーンの旅のほんの始まりにすぎなかった。彼はなぜ大統領に会おうとするのか、メッセージの意味は?そして旅の先に待つものは?
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大作にふさわしい素晴らしい作品でした。傑作だと思います。細かなところを言えばいろいろ出てくるとは思いますが、そういうのもすべて押しのけて観客を引き込む力強さがあります。アスペルガー症候群の男が大統領に会うためにアメリカを旅するという変わった設定ですが、内容はシンプルでストレートです。古くからの問題で、今もなお問題であり続けている、人種や宗教を超える普遍的な愛がテーマになっています。
ストーリーは現在のリズヴァーンの旅によって進行し、ときどきの回想により生い立ち、マンディラ(カージョル)との出会いと結婚、そして旅の直接のきっかけとなる事件が語られます。そしてクライマックス、エンディングという構成になっています。全体に落ちるやや暗い影にも関わらず、エンターテイメント性も十分にあります。
リズヴァーンがアスペルガー症候群という設定。私はアスペルガーについてそれほど多くを知らないので、実際のアスペルガーに比べてリズヴァーンのキャラクターやシャールクの演技がどうだったかは言えません。しかし、映画のキャラクターとしてはアスペルガーの主人公という設定は成功だったと思います。アスペルガーの特徴の一つに、相手の表情などを読むことができずに相手の言葉を額面通りに受け取る、また遠慮して発言を控えたり、お世辞をいうことなどが苦手というのがあります(作品中にもありましたが、「このチキンどう?」、リズヴァーン「とても不味い」)。リズヴァーンはアスペルガーであることで、西洋文学にあるところの道化の役割を得まています。【Paa】(2009)のアウロも同じ役割ですが、リズヴァーンのほうはそのことがさらに重要な意味を持ちます。テロ後のアメリカという誰も真実を口に出したり、思ったように行動することができない状況で、ただ一人真実を言い、思った行動をすることが許される道化。そして道化が真のヒーローであるのが【My Name is Khan】です。
さすがに最近のインド映画のヒーローは昔ほどマッチョではありませんが、それでもやはり皆雄弁です。今回の自己表現の苦手なリズヴァーンはそんなヒーローとは正反対、インド映画のヒーロー像が変わりつつあることを示しています。そして変わるヒーロー像にはいつもシャールクが関わっている、これは変わっていません。
作品のもう一つのテーマは旅。リズヴァーンは大統領を追いかけて、アメリカ中を旅することになります。最近わりと滞留型の作品が多いシャールク、旅といえばカージョルとの【Dilwale Duhania Le Jayenge】(1995)を思い出します(【Dil Se】(1998)、【Chalte Chalte】(2003)、【Swades】(2004)もかな)。今回は全面的なロードムービーとまではいかず、カージョルも同行しませんが、なかなか旅の情感は出ています。
徹底した悪人が出てこないところや最後には世論が味方に付くところなど、やや優等生的と言えなくもないですが、そこはボリウッドの優等生カラン・ジョーハル作品ということで大目にみましょう。【Kabhi Alvida Naa Kehna】(2006)以来の監督作品で、その間テレビなどでチャラチャラしていたりもしましたが(作品の質とは関係ないですが)、やはり大作をまとめあげる才能には傑出したものがあります。
音楽は基本的にメローな曲。いいタイミングで入り、感動を誘われます。
シャールク・カーン(「私の名はカーン」、リズヴァーン・カーン役)
全編にわたるアスペルガーの演技が鼻につくという人はいるかもしれません。ファンでも好き嫌いが分かれる可能性もあります。しかし、いずれにしてもシャールクの演技がこの役を支えていることは間違いありません。表情や言葉による表現を抑えてなおかつ心を表現する難役に挑んだところはさすがだと思います。もっとも、見ていて思ったのですが、今回のシャールクの演技、基本的にはこれまでのシャールクの演技の延長では?不謹慎な言い方をすると、これまでのシャールクの演技ってかなりアスペルガー的?これは観る人の判断にお任せしますが。
カージョル(リズヴァーンの妻マンディラ役)
さすがカージョルといったところ。シャールクが抑えた演技と対照的にカージョルは感情表現たっぷりの演技。前半の明るいシングル・マザーから後半の思い詰めた表情までほぼ完璧です。もちろんカージョル独特のスタイルは残しています。結婚引退から復帰して、女優として磨きがかかっている気がします。これもこれまでのインド映画は珍しいことです。
ジミー・シャーギル(リズヴァーンの弟ザキール役)
(写真はこの作品のものではありません)
早くからアメリカに渡って成功しているが、アスペルガーにも関わらず(アスペルガーゆえに)子供時代から何かと注目される兄に密かに嫉妬を抱いている役です。出演時間もそれほど長くなくないうえ地味ですが、いい役でした。【Mohabattein】(2000)から10年なんですね。その間、苦労もしたみたいですが、小規模な作品に出続け、【A Wednesday!】(2008)での好演により今回の出演となりました。
スガンダ・ガルグ Sugandha Garg
(写真はこの作品のものではありません)
こちらは見るまで全くのノーマークでした。リズヴァーンを助けるテレビ局の記者役です。【Jaane Tu ... Ya Jaane Na】(2008)でジュネリアの友人役でした。【Jaane Tu ...】は脇役が光っていた作品だったので、どこかでまた出てくると思ってました。
カラン・ジョーハル、シャールク・カーン、カージョルで一時代を築いた【Kuch Kuch Hota Hai】(1998)から10年以上経ったんですね。同じトリオで作られた【My Name is Khan】、やはり何らかの区切りの作品になる気がします。
【My Name is Khan】
シャールク・カーンのファンの人、カージョルのファンの人、リズヴァーンが大統領に会えるどうか心配な人、シンプルな感動作もたまにはいいという人、お勧めです。
by madanaibolly
| 2010-02-13 00:13
| レビュー